「介護をしていると、些細なことでイライラしてしまう」「親にきつく当たった自分が嫌になる」。こうした感情は、介護をする人の多くが経験するものだと言われています。結論から言えば、介護者自身の心身の不調は気力や愛情の問題ではなく、制度や周囲の力を使わずに一人で抱え込むことで起こりやすいと考えられています。
本記事では、介護する人の健康について以下のポイントを中心に解説します。
- 介護者に起こりやすい心身の不調(睡眠・腰痛・うつ・孤立・経済的負担)の背景
- 地域包括支援センターや要介護認定、ケアマネジャー、レスパイトなど頼れる制度の使い方
- 介護離職を防ぐための介護休業・介護休暇の仕組みと、罪悪感との向き合い方
ぜひ最後までお読みください。
介護する人に起きやすい心身の不調とは
介護する人には、睡眠不足・腰痛・気分の落ち込み・孤立・経済的負担という5つの不調が重なりやすいと考えられています。総務省統計局の令和4年就業構造基本調査によると、家族の介護をしている人は全国で629万人にのぼり、このうち365万人が働きながら介護を続けています。仕事、家事、育児に介護が重なることで、休息の時間が真っ先に削られやすいのが実情です。
身体面では、夜間の見守りや排せつ介助による睡眠の分断、抱え上げ・体位変換による腰や肩への負担が指摘されています。心の面では、先の見えない介護への不安や、自分の時間が持てないことへの焦りが積み重なり、気分の落ち込みや強い疲労感につながることがあると言われています。友人と会う時間が減り孤立感を深める人も少なくありません。
介護は、一人で抱え込むほど不調のリスクが高まりやすいと考えられています。
これらの不調は「弱さ」の表れではなく、介護という負荷の大きい役割に伴う自然な反応です。次章では、なぜ自分の不調に気づきにくいのかを見ていきます。
なぜ「がんばりすぎ」に気づきにくいのか
介護者が自分の不調に気づきにくいのは、目の前の家族の状態が優先され、自分のことは後回しになりやすいためです。「大変なのは介護されている本人であって、自分が弱音を吐いてはいけない」という考え方が、休むことへのハードルを上げてしまいます。
責任感の強さが休息の妨げになりやすい
責任感の強い人ほど、他者に頼ることを「自分の役割を放棄すること」と感じやすい傾向があります。しかし、介護者自身が倒れてしまえば介護そのものが継続できなくなります。自分の体調管理も、介護の一部だと捉え直すことが大切です。
不調のサインは体・心・生活の3方向に現れる
不調は身体症状だけでなく、感情や生活習慣の変化としても現れます。次のようなサインが重なっている場合は、すでにがんばりすぎている可能性があります。
| 領域 | 気づきやすいサイン | 背景として考えられること |
|---|---|---|
| 身体 | 腰や肩の痛み、慢性的な倦怠感、頭痛 | 抱え上げ・中腰姿勢の繰り返し、睡眠不足の蓄積 |
| こころ | 涙もろさ、イライラの増加、無気力感 | 先の見通しが立たない不安、自由時間の欠如 |
| 生活・関係 | 外出や友人との交流の減少、経済的な圧迫感 | 介護時間の増加による孤立、介護費用の負担 |
複数のサインに心当たりがある場合は、次章で紹介する窓口に早めに相談することが、負担を軽くする近道になります。
まず頼るべき窓口:地域包括支援センターと要介護認定
介護に関する悩みは、まず地域包括支援センターに相談することが基本の入り口になります。地域包括支援センターは、高齢者の総合相談や介護予防の支援などを行う公的な機関で、全国に5,487か所(支所を含めると7,374か所、令和7年4月末現在)設置されています。介護サービスの利用が初めてでも、電話や来所で相談できます。
要介護認定を申請すると使える制度が広がる
介護保険サービスを利用するには、市区町村の窓口で要介護認定を申請する必要があります。認定調査と主治医の意見書をもとに要支援・要介護度が判定され、区分に応じて利用できるサービスの範囲が決まります。申請は本人だけでなく家族が代行することも可能です。
ケアマネジャーがケアプランの相談相手になる
要介護認定を受けると、居宅介護支援事業所のケアマネジャー(介護支援専門員)が心身の状態や家族の希望を踏まえてケアプランを作成します。「どのサービスをどれくらい使うか」を一人で決める必要はなく、ケアマネジャーと相談しながら調整できます。
| 状況 | 相談先・制度 | 概要 |
|---|---|---|
| 何から始めればよいか分からない | 地域包括支援センター | 高齢者の総合相談窓口。介護保険以外の悩みも相談可能 |
| 介護サービスを使いたい | 要介護認定の申請 | 市区町村窓口で申請し、区分に応じたサービスを利用 |
| サービスの組み方を相談したい | ケアマネジャー(居宅介護支援) | 状況を踏まえたケアプランの作成・見直しを担当 |
自分の負担がどこから来ているのか分からないときは、無料のセルフチェックで今の状態を整理してみるのも一つの方法です。
休むための制度:レスパイト(ショートステイ・デイサービス)
介護者が定期的に休息を取るためには、レスパイトケアと呼ばれる仕組みを活用することが有効だと考えられています。レスパイトとは「小休止」を意味し、短期入所生活介護(ショートステイ)や通所介護(デイサービス)のように、一時的に介護を代わってもらうサービス全般を指します。
ショートステイは数日単位で施設に短期入所するサービスで、通院や冠婚葬祭、まとまった休息が必要なときに利用されます。デイサービスは日帰りで施設に通い、入浴や食事、機能訓練などを受けられるサービスで、日中の時間を介護者が自分のために使えるようになります。いずれも要介護認定の区分に応じて利用回数や自己負担が決まるため、具体的な組み方はケアマネジャーに相談すると調整しやすくなります。
「まだ大丈夫」「もう少し自分でがんばれる」と感じるうちから、定期的にレスパイトを組み込んでおくことが、燃え尽きを防ぐ工夫の一つとされています。限界を迎えてから制度を探すのではなく、余力があるうちに使い方を知っておくことが大切です。
介護離職を防ぐ:介護休業・介護休暇という選択肢
仕事と介護の両立に悩んだとき、退職を選ぶ前に検討したいのが介護休業・介護休暇の制度です。総務省統計局の調査では、介護・看護のために前職を離職した人は、直近1年間で11万人にのぼり、5年前より1万人増加しています。介護離職は収入減少やキャリアの中断につながりやすく、慎重に検討すべき選択と言えます。
次のうち、できそうなものから確認してみてください。
- 介護休業:対象家族1人につき、通算93日まで3回を上限に分割して取得できる制度です。
- 介護休業給付金:一定の要件を満たすと、休業開始時賃金日額の67%を目安に、93日を限度として最大3回まで支給されます。
- 介護休暇:対象家族1人であれば年5日、2人以上であれば年10日まで、時間単位でも取得できます。
- 勤務先の両立支援窓口:人事・総務に相談すると、短時間勤務やフレックスなど社内独自の制度が案内される場合があります。
これらの制度は勤務先への申出が前提となるため、対象家族の状態が変わり始めた早い段階で、就業規則や人事窓口を確認しておくと安心です。
ヤングケアラーという視点も忘れずに
家族を介護しているのは大人だけではありません。本来大人が担うと想定される家事や家族の世話を日常的に行っている子ども・若者は、ヤングケアラーと呼ばれています。学業や友人関係に影響が出ていても、本人が「家族だから当然」と感じて周囲に相談できないケースがあると指摘されています。
ヤングケアラー自身、あるいは周囲の大人が気づいた場合は、学校の先生やスクールカウンセラー、市区町村のこども家庭センター、都道府県の相談窓口につなぐことができます。子どもが担っている負担を「よくあること」で済ませず、大人が制度につなぐ視点を持つことが重要です。
罪悪感・怒り・限界のサインとの向き合い方
介護に伴う罪悪感や苛立ちは、多くの介護者が経験する正常な反応だと考えられています。「施設に預けることに罪悪感がある」「早く終わってほしいと思ってしまった自分を責めてしまう」といった感情は、愛情が無いことの証ではなく、負担が積み重なっているサインとして捉えることが大切です。
一方で、強い苛立ちが被介護者への暴言や乱暴な対応につながりそうだと感じる場合、それは我慢して耐える段階を超えています。自分を追い詰める前に、地域包括支援センターに状況を伝え、ケアプランの見直しやレスパイトの追加利用など、負担を減らす具体策を一緒に検討してもらうことが望ましいとされています。介護保険制度の相談は無料で利用でき、匿名に近い形で状況だけを伝えることも可能です。
強い不眠や食欲不振、涙が止まらない状態が2週間以上続く場合は、かかりつけ医や心療内科など医療機関への相談も選択肢に入れてください。
よくある質問
介護保険サービスは、要介護度が低くても使えますか。
要支援1・2の段階でも、介護予防を目的としたサービスを利用できます。まずは地域包括支援センターや市区町村の窓口に相談し、要介護認定の申請から始めることが基本の流れです。
親を施設に預けることに罪悪感があります。おかしいことでしょうか。
おかしいことではないと考えられています。施設やショートステイの利用は「見捨てる」ことではなく、介護を継続するための選択肢の一つです。罪悪感自体は自然な感情として受け止めつつ、負担を分散する手段として活用することが大切です。
会社に介護のことを伝えづらいのですが、どうすればよいですか。
介護休業・介護休暇は法律で定められた労働者の権利です。人事や上司に伝えづらい場合は、就業規則の該当箇所を確認したうえで、まず人事・総務の窓口に制度の利用を相談する方法があります。
遠方に住んでいて頻繁に通えません。何ができますか。
親が住む地域の地域包括支援センターに電話で相談し、要介護認定の代行申請やケアマネジャーとの連携を依頼できます。訪問系サービスやデイサービスを組み合わせることで、毎日の見守りを在宅のまま補うことも可能です。
ヤングケアラーかもしれない子どもに気づいたら、どうすればよいですか。
まずは学校の先生やスクールカウンセラー、市区町村のこども家庭センターに相談してください。本人が「相談してよい」と思えるよう、負担を否定せず話を聞く姿勢が大切だと言われています。
まとめ
介護する人の不調は、睡眠不足・腰痛・気分の落ち込み・孤立・経済的負担が重なって生じやすいものです。地域包括支援センターへの相談、要介護認定の申請、ケアマネジャーとのケアプラン調整、ショートステイやデイサービスといったレスパイト、介護休業・介護休暇の活用など、頼れる制度は複数用意されています。罪悪感やイライラを否定せず、負担のサインとして早めに窓口へつなぐことが、介護を続けるための土台になります。強い不調が続く場合は、自己判断で我慢せず医療機関や地域包括支援センターに相談してください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能や治療、制度利用の結果を保証するものではありません。心身の不調が続く・つらいと感じる場合は、自己判断せず医療機関や地域包括支援センターにご相談ください。
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参考文献
- 厚生労働省「介護保険制度の概要」
- 厚生労働省「要介護認定」
- 厚生労働省「地域包括支援センター」
- 厚生労働省「介護休業制度」
- 厚生労働省「介護休暇制度」
- ハローワークインターネットサービス「介護休業給付金」
- 厚生労働省「介護保険制度の概要(サービスの種類)」
- こども家庭庁「ヤングケアラーについて」
- 総務省統計局「令和4年就業構造基本調査 結果の概要」
編集:Wellstate編集部/監修:準備中
