「仕事がつらいけれど、何がつらいのか言葉にできない」「サボっているわけではないのに、朝、家を出るのが重い」。こうした感覚を、多くの人は「自分の甘え」や「メンタルの弱さ」として片づけてしまいがちです。結論から言えば、仕事のつらさは量的負担・質的負担・裁量の少なさ・支援の不足・努力と報酬の不均衡という要素に分解でき、国内外の職業ストレス研究がその構造を整理してきたと考えられています。

本記事では、仕事のストレス要因について以下のポイントを中心に解説します。

ぜひ最後までお読みください。

「仕事がつらい」を要素に分解する

「仕事がつらい」という漠然とした感覚は、量的負担・質的負担・裁量の少なさ・支援の不足・報酬の不均衡という要素に分けると、輪郭が見えやすくなります。この5つは、これから紹介する3つの理論モデルが共通して扱ってきた要素です。

量的負担は、仕事の絶対量や時間あたりの処理量の重さを指します。質的負担は、高度な知識・技術や強い注意集中が求められる難しさです。裁量の少なさは、仕事の進め方や順番を自分で決められる範囲の狭さを表します。支援の不足は、上司や同僚、家族からの助けが得にくい状態です。そして報酬の不均衡は、投じた努力に対して賃金・評価・承認・キャリア機会といった見返りが釣り合っていない感覚を指します。

「なんとなくつらい」は、量的負担・質的負担・裁量・支援・報酬という5つの要素に分けると、対処の糸口が見えてきます。

この分解が役立つのは、原因を「自分の性格」ではなく「状況の組み合わせ」として捉え直せるからです。次章では、この5要素の背景にある3つの学術的モデルを順に整理します。

仕事のストレスを説明する3つのモデル

職業ストレスの研究では、要求と資源のバランスに着目する立場が主流です。ここでは代表的な3つのモデルを紹介します。

モデル 提唱者 核心となる考え方
JD-Rモデル(仕事の要求度-資源モデル) Bakker & Demerouti 仕事の要求度と資源のバランスが、消耗の過程とやる気の過程の両方を左右する
要求度-コントロールモデル Karasek 高い要求度と低い裁量(コントロール)が重なる状態が、最も負荷が高いとされる
努力-報酬不均衡モデル Siegrist 投じた努力に見合う報酬が得られない状態が、慢性的なストレスにつながる

JD-Rモデル──要求と資源のバランス

JD-Rモデルは、仕事の特性を「要求度(demands)」と「資源(resources)」の2種類に分けて捉える枠組みです。BakkerとDemeroutiは、要求度が高いまま資源が乏しい状態が続くと消耗(バーンアウトにつながる過程)が進み、逆に資源が豊富だとやる気やエンゲージメントが高まる過程が働くと整理しています[1]。資源には、裁量の大きさ、上司や同僚からの支援、フィードバックの機会、成長の見通しなどが含まれます。

このモデルの重要な点は、要求度そのものを一律に「悪」と扱わないところです。要求度が高くても、それに見合う資源があれば負担として蓄積しにくいと考えられています。逆に、資源が乏しいままでは、小さな要求の積み重ねでも消耗が進みやすくなります。

要求度-コントロールモデル──裁量の少なさが増幅させる負荷

要求度-コントロールモデルは、仕事の要求度と、仕事の進め方を自分で決められる裁量(コントロール)の組み合わせに着目します。Karasekが示したのは、要求度が高くコントロールが低い状態(high strain)が、心理的緊張の観点で最も負荷が高くなりやすいという考え方です[2]

逆に、要求度が高くてもコントロールが伴う場合は「アクティブ」な状態とされ、必ずしも高負荷とはみなされません。同じ量の仕事でも、進め方の裁量があるかどうかで感じる負担が変わってくる、という点がこのモデルの含意です。

努力-報酬不均衡モデル──頑張りが報われない構造

努力-報酬不均衡モデルは、仕事に投じる努力と、そこから得られる報酬(賃金、尊重・承認、雇用の安定やキャリアの見通し)の釣り合いに焦点を当てます。Siegristは、高い努力と低い報酬が組み合わさった状態が続くと、健康への悪影響につながりやすいと報告しています[3]

このモデルにはもう一つ、「過剰コミットメント」という個人側の要素も含まれます。仕事に過度にのめり込みやすい傾向がある人は、同じ不均衡でもより強くストレスを感じやすいとされています。ただしこれは個人の性質を責める材料ではなく、報酬構造の見直しと合わせて捉えるべき要素です。

職業性ストレス簡易調査票で見る、負担の中身

日本の労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度では、多くの事業場で「職業性ストレス簡易調査票(57項目)」が使われています。この調査票の構成を知っておくと、自分の負担を具体的な言葉で捉える助けになります[4]

調査票は大きく3つの領域に分かれています。A領域は仕事のストレス要因で、量的負担・質的負担・身体的負担・コントロール度(裁量)・対人関係・職場環境・仕事の適性度や働きがいといった項目を含みます。B領域は心身のストレス反応で、活気、イライラ・怒り、疲労感、不安、抑うつ感、頭痛や肩こりといった身体症状が並びます。C領域は上司・同僚・家族からの支援と、仕事や生活への満足度を尋ねる項目です。

領域 測っているもの 項目例
A:仕事のストレス要因 負担の種類と裁量、職場環境 量的負担、質的負担、コントロール度、対人関係、職場の適性度
B:心身のストレス反応 心身に出ている反応 活気、イライラ、疲労感、不安、抑うつ感、身体症状
C:周囲の支援 支援の得やすさと満足度 上司・同僚・家族の支援、仕事や生活の満足度

ストレスチェックを受けた経験がある方は、この構成と自分の結果を照らし合わせてみると、「量的な負担は普通だが、コントロール度が低い」「支援は十分だが、質的負担が高い」といった具体的な把握につながりやすくなります。

自分がどの要素で負担を感じやすいか整理したい方は、無料のセルフチェックで「いま整えたいテーマ」を確認できます。

個人にできること、組織の課題として残ること

3つのモデルが示す共通の含意は、「資源を増やす」か「要求を減らす」かのいずれかです。そしてその多くは、個人の努力だけでは動かせない組織側の課題であることを、まず押さえておく必要があります。

個人でできることは限られますが、無意味ではありません。次のうち、できそうなものから試してみてください。

一方で、業務量の配分、権限委譲の設計、評価や報酬の制度、人員体制、ハラスメント防止の仕組みといった要素は、組織側が動かすべき課題です。個人の工夫で乗り切れない負担を「自分の対処が足りない」と受け止めてしまうと、かえって回復を遅らせることがあります。

ハラスメントが背景にあるときは、相談窓口へ

負担の背景にパワーハラスメントやセクシュアルハラスメントなどがある場合は、ストレス対処の工夫では解決しません。この場合に必要なのは、コーピングの技術ではなく、相談窓口につながることです。

ハラスメントは個人の受け止め方の問題ではなく、行為そのものの是正が必要な事案です。「自分の対応が悪かったのでは」と抱え込まず、早い段階で社内外の窓口に相談することが大切です。証拠となりうる記録(日時・内容・関係者)を残しておくと、相談の際に役立ちます。

相談窓口の使い分け

相談先は目的によって使い分けると、話がスムーズに進みやすくなります。

どこに相談すればよいか迷う場合は、まずこころの耳の相談窓口案内から、自分の状況に近い窓口を探すことができます。

よくある質問

ストレスチェックで「高ストレス」と判定されたら、何をすればいいですか

結果通知に記載された医師による面接指導の申し出制度を利用することをおすすめします。事業者には、申し出があった場合に面接指導を実施する義務があります。

会社にストレスチェック制度自体がない場合はどうすればいいですか

労働者数50人未満の事業場では、ストレスチェックの実施は当面の間、努力義務とされています。制度がなくても、こころの耳のセルフチェックや相談窓口は誰でも利用できます。

3つのモデルのうち、自分がどれに当てはまるか分からない場合はどうすればいいですか

3つのモデルは重なり合う部分が多く、どれか一つに厳密に当てはめる必要はありません。負担を「量」「質」「裁量」「支援」「報酬」の5要素に分けて考えるだけでも、状況の整理に役立ちます。

「自分の甘えではないか」と不安になりますが、どう考えればいいですか

これらのモデルが示しているのは、負担の多くが職場の状況側の要因だという考え方です。感じているつらさを、まず性格の問題として片づけないことが出発点になります。

転職すればストレスは解消しますか

要求と資源のバランスは職場ごとに異なるため、環境を変えることが助けになる場合もあります。ただし、何が自分にとっての負担なのかを整理しないまま移ると、同じ構造の職場を選んでしまうこともあるため、まず負担の要素を言語化することをおすすめします。

まとめ

仕事のつらさは、量的負担・質的負担・裁量の少なさ・支援の不足・報酬の不均衡という要素に分解できます。JD-Rモデル、要求度-コントロールモデル、努力-報酬不均衡モデルは、それぞれ異なる角度からこの構造を説明してきました。職業性ストレス簡易調査票の構成を知ることも、自分の状況を具体的な言葉で捉える助けになります。そして、その改善の多くは組織側の課題であり、個人の工夫だけで解決を求めすぎないことも大切です。ハラスメントが背景にある場合や、強い不調が続く場合は、自己判断せず早めに相談窓口や医療機関につながってください。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能や治療を保証するものではありません。強い不調や希死念慮など緊急性の高い症状がある場合は、自己判断せず速やかに医療機関や相談窓口にご相談ください。

参考文献

編集:Wellstate編集部/監修:準備中