「モヤモヤした気持ちを誰かに話したいのに、うまく言葉にできない」「同じ悩みが頭の中をぐるぐる回って、夜になっても気持ちが晴れない」。そんな感覚を抱えたことがある人は少なくありません。結論から言えば、思っていることをそのまま紙やデバイスに書き出す「ジャーナリング」は、気持ちを整理し、出来事のとらえ方を少しずつ変えていく助けになると考えられています。本記事では、ジャーナリングについて以下のポイントを中心に解説します。
- 気持ちを書き出すことがなぜ有効とされているのか、研究の背景と限界
- 具体的な書き方(時間・回数・場所・書いた後の扱い方)
- 書いた直後に気分が落ち込むことがある理由と、専門家に相談すべき場面
ぜひ最後までお読みください。
ジャーナリングとは何か
ジャーナリングとは、頭に浮かんだ考えや感情を、誰かに見せる前提を持たずに書き出す行為です。日記のように出来事を記録するだけでなく、そのとき感じたことをそのまま言葉にしていく点が特徴とされています。書く内容に決まった型はなく、うれしかったことも、腹立たしかったことも、説明のつかない不安も、思いつくままに書いてよいとされています。
混同されやすいのが「感謝日記」のような、その日の良かったことを3つ書き出す前向き志向の記録法です。感謝日記は気分を上向かせる方向にフォーカスを絞る手法である一方、ジャーナリングはつらい感情や整理できていない出来事も含めて書く点で性質が異なります。両方とも「書く」という行為を使いますが、狙いと書く対象が違うため、目的に応じて使い分けるとよいと考えられています。
ジャーナリングは気分を良くするための作業というより、出来事や感情を言葉にして整理し直すプロセスだと考えられています。
次の章では、なぜ「書く」という単純な行為に、気持ちを整理する働きがあるとされているのかを、研究の背景から見ていきます。
なぜ書くと気持ちが整理されるのか
ジャーナリングの土台になっているのは、心理学者ジェームズ・W・ペネベーカーらが1980年代から続けてきた「筆記開示(expressive writing)」の研究です。1986年の代表的な研究では、大学生につらい体験について4日間連続で書いてもらったところ、その後の健康センター受診回数が減ったことが報告されました[1]。この結果をきっかけに、感情を言葉にして書き出すことが心身の状態と関係しているという見方が広がりました。
ただし、効果を語るうえで正直に伝えておきたい点があります。2006年に146件の研究を統合した大規模なメタ分析では、筆記開示の効果量は平均でr=.075、統計的には「小さい効果」にとどまると報告されています[2]。つまり、ジャーナリングは万能の解決策ではなく、劇的な変化を保証するものではないと理解しておくことが大切です。それでも積み重ねれば意味のある違いにつながる可能性がある、というのが研究者たちの立場です。
もう一つ重要なのは「感情を書くだけ」では効果が限定的だとされている点です。国内の研究では、同じ体験について繰り返し書くうちに、出来事の受け止め方や意味づけが変化する「認知的再体制化」が、気分の落ち込みなど心理的な症状の改善に関わっていたと報告されています[4]。感情を吐き出すことそのものよりも、書きながら出来事を別の角度から見つめ直し、意味づけを更新していくプロセスが、ジャーナリングの働きの中心にあると考えられています。
具体的なやり方:時間・回数・書く場所
ジャーナリングは特別な道具がなくても始められますが、研究で使われてきた基本の型を知っておくと、効果を試しやすくなります。
基本のステップ
ペネベーカーらの研究で用いられてきた基本形は、1回15〜20分、3〜4日連続で書くというものです[1][3]。テーマは一つの出来事や気がかりに絞り、文法や誤字、話の筋が通っているかは気にせず、思いつくままに手を止めずに書き進めます。誰かに読ませる文章ではないので、うまく書こうとしなくてよいとされています。場所は静かで一人になれるところであれば、自宅の机でもカフェの隅でも構いません。
書いた後はどうする?
書いた文章は、読み返しても、そのまま処分してもどちらでもよいとされています。多くの研究では、書いた直後に読み返すことは必須の手順とされていません。一方で、数日から数週間たってから読み返すと、当時は気づかなかった自分の考え方の癖や、出来事の別の側面に気づくことがあります。読み返して気持ちが乱れるようなら、無理に読まず処分してしまってもかまいません。
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続けるための工夫:紙かデジタルか
ジャーナリングは「三日坊主」になりやすい習慣の一つでもあります。紙・デジタルそれぞれの特徴と、続けるための工夫を整理しました。
| 方法 | 向いている人 | 工夫のポイント |
|---|---|---|
| 紙のノート | 手で書く感覚を大切にしたい人、画面から離れたい人 | 専用ノートを1冊決めて視界に入る場所に置く |
| スマホのメモ・アプリ | すきま時間に書きたい人、持ち歩きたい人 | 通知やロック画面から起動できるようにしておく |
| 音声入力 | 書くこと自体が負担に感じる人 | 文字化された内容を後で軽く読み返す程度でよい |
どの方法を選んでも、続けやすさを優先することが大切だと考えられています。次のうち、できそうなものから取り入れてみてください。
- 時間を固定する:寝る前や朝の身支度後など、生活の流れの中に組み込みます。
- 分量を減らす:最初は3行、5分だけなど、続けやすいところから始めます。
- お題を用意しておく:「今日一番気になったこと」など、書き出しに迷わない問いを決めておきます。
- 完璧を目指さない:書けない日があっても構わないという前提で再開のハードルを下げます。
毎日欠かさず続けることよりも、気持ちが揺れたときに書くという選択肢を持っておくことのほうが、長い目で見て役に立つとされています。
注意点と受診の目安
ジャーナリングには、知っておくべき注意点があります。つらい出来事や感情について書いた直後は、一時的に気分が落ち込んだり、涙が出たりすることがあると報告されています[3]。これは書くことに慣れていく過程で起こりうる自然な反応とされていますが、驚いて「逆効果だった」と誤解してしまう人もいます。多くの場合、こうした落ち込みは数時間から1日程度で和らぐとされていますが、無理に毎回つらい出来事へ向き合う必要はありません。
特に、事故や災害、暴力被害などトラウマ的な体験については、一人でジャーナリングを通じて詳細に向き合うことはすすめられていません。フラッシュバックのような症状が強まる可能性があるため、こうした体験を扱いたい場合は、心理士や医師などの専門家の支援のもとで進めることが大切です。
次のような状態が2週間以上続く場合や、日常生活に支障が出ている場合は、ジャーナリングだけで抱え込まず、医療機関や相談窓口に相談することをおすすめします。
- 気分の落ち込みや、何をしても楽しめない状態が続いている
- 眠れない、または眠りすぎる状態が続いている
- 書いても気持ちが晴れず、むしろつらさが増していく感覚がある
一人で判断がつかないときは、「こころの健康相談統一ダイヤル」(0570-064-556)などの相談窓口も利用できます[5]。
よくある質問
ジャーナリングは毎日やるべきですか?
毎日でなくても構わないとされています。気持ちが揺れたときや、頭の中を整理したいときに書く習慣を持っておくだけでも十分に意味があると考えられています。
ノートとスマホ、どちらがいいですか?
どちらでも構わないとされています。大切なのは続けやすさなので、手で書く感覚が落ち着く人はノート、すきま時間に書きたい人はスマホのメモアプリなど、自分に合う方法を選んでください。
書いても気持ちが晴れません。効果がないということですか?
効果がないとは限りません。研究では効果量自体は大きくないと報告されており、1回で劇的な変化を感じにくいのは自然なことです。数日から数週間、無理のない範囲で続けてみて、それでも苦しさが続く場合は専門家への相談を検討してください。
つらい体験を書いて涙が出ました。続けても大丈夫ですか?
一時的な落ち込みは、多くの場合自然な反応とされています。ただし、フラッシュバックのように出来事が繰り返しよみがえる、動悸や強い不安が続くといった場合は、一人で書き続けず、医師や心理士に相談することをおすすめします。
感謝日記とジャーナリングは同じものですか?
同じではないと整理されています。感謝日記は良かったことに焦点を当てて前向きな気分を育てる手法で、ジャーナリングはつらい感情や整理できていない出来事も含めて書き出す点が異なります。どちらも「書く」ことを使いますが、狙いが違うため目的に応じて選ぶとよいとされています。
どのくらい続ければ効果を感じられますか?
個人差が大きく、明確な期間は示されていません。研究で使われてきた3〜4日連続という型を目安に、まずは1週間ほど試し、自分に合うかどうかを確かめてみることをおすすめします。
まとめ
ジャーナリングは、思っていることを紙やデバイスに書き出し、出来事の受け止め方を見つめ直していく行為です。土台になっている筆記開示の研究では、健康や気分に対する一定の効果が報告されている一方、効果量自体は大きくないことも正直に伝えられています。15〜20分・数日連続という基本の型を参考にしつつ、紙かデジタルか、続けやすい方法を選ぶことが大切です。書いた直後に気分が落ち込むことがある点、トラウマ的な体験は専門家の支援のもとで扱うべき点も、あわせて知っておいてください。気分の落ち込みが長引く、日常生活に支障が出ているといった場合は、自己判断でジャーナリングだけに頼らず、医療機関や相談窓口への相談を検討してください。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能や治療を保証するものではありません。気分の落ち込みやつらさが続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
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参考文献
- [1] Pennebaker JW, Beall SK. "Confronting a traumatic event: toward an understanding of inhibition and disease." J Abnorm Psychol. 1986(PubMed)
- [2] Frattaroli J. "Experimental disclosure and its moderators: a meta-analysis." Psychol Bull. 2006(PubMed)
- [3] Smyth JM. "Written emotional expression: effect sizes, outcome types, and moderating variables." J Consult Clin Psychol. 1998(PubMed)
- [4] 佐藤德「筆記開示はなぜ効くのか─同一体験の継続的な筆記による馴化と認知的再体制化の促進─」感情心理学研究 19巻3号(2012)(J-STAGE)
- [5] 厚生労働省「まもろうよ こころ」電話相談窓口一覧(こころの健康相談統一ダイヤル)
編集:Wellstate編集部/監修:準備中
