「通院や薬代がかさんだ年、確定申告で何か戻ってくると聞いたけれど仕組みが分からない」「セルフメディケーション税制という言葉は聞くけれど、医療費控除と何が違うのか分からない」。健康にお金を使った年ほど、こうした疑問が出てきます。結論から言えば、医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらも税負担を軽くしうる仕組みですが、対象になる支出も計算方法も異なり、しかも両方を同時に使うことはできません。この記事では、対象になりうる支出の考え方、控除額の基本的な計算方法、両制度の選び方までを順に整理します。
本記事では、医療費控除とセルフメディケーション税制について以下のポイントを中心に解説します。
- 医療費控除の対象になりうる支出・なりにくい支出の線引き
- 控除額を左右する「10万円」と「所得の5%」という基準の考え方
- セルフメディケーション税制の対象医薬品・上限額と、医療費控除との選択適用の関係
ぜひ最後までお読みください。
医療費控除とセルフメディケーション税制の全体像
医療費控除は、1年間に一定額を超える医療費を支払った場合に、所得税や住民税の負担が軽くなりうる所得控除の制度です。対象になるのは、納税者本人だけでなく、生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費も含まれるとされています(国税庁 タックスアンサー No.1120)。
セルフメディケーション税制は、この医療費控除の「特例」という位置づけの制度です。対象となる市販薬(スイッチOTC医薬品)を年間で一定額以上購入した場合に、所得控除を受けられる仕組みで、健康の保持増進や疾病の予防に取り組んでいることが条件になります(国税庁 タックスアンサー No.1129)。
医療費控除とセルフメディケーション税制は、どちらも「使えるかもしれない」制度であり、どちらか一方しか選べない選択適用の関係にあります。
どちらの制度も、対象になるかどうかは支出の内容や家庭の状況によって変わります。次の章から、それぞれの範囲と計算の考え方を具体的に見ていきます。
医療費控除の対象になりうる支出・なりにくい支出
医療費控除の対象になりうるのは、治療を目的とした支出が基本です。予防や美容、健康の維持・増進を目的とした支出は、原則として対象になりにくいとされています(国税庁 タックスアンサー No.1122)。
境界が分かりにくい支出も多いため、代表的な例を整理します。
| 区分 | 対象になりうる例 | 対象になりにくい例 |
|---|---|---|
| 診療・治療 | 医師・歯科医師による診療、治療費、入院時の部屋代や食事代 | 美容目的の施術、医師への謝礼金 |
| 医薬品 | 治療のために使用する風邪薬などの医薬品 | ビタミン剤など健康増進・予防目的の医薬品 |
| 通院・移動 | 電車・バスなど公共交通機関での通院費 | 自家用車のガソリン代・駐車場代、正当な理由のないタクシー代 |
| 検査 | 健診で重大な疾病が見つかり、引き続き治療を受けた場合の検査費用 | 異常が見つからなかった健康診断・人間ドックの費用 |
表からも分かるとおり、同じ「検査」でも結果によって扱いが変わる点が特徴です。健康診断や人間ドックの費用は、結果として治療につながらなければ原則として対象になりにくいとされています。この境界線は個別の状況で判断が分かれるため、迷う支出があれば税務署や税理士に確認することをおすすめします。
医療費控除額はどう計算するか
医療費控除額は、支払った医療費から保険金などの補填額と基準額を差し引いて計算します。基準額には「10万円」と「所得の5%」という2つの数字が関わります。
基本の計算式
控除額は「(実際に支払った医療費の合計額 − 保険金等で補填される金額) − 基準額」で求められます。基準額は、その年の総所得金額等が200万円以上の場合は10万円、200万円未満の場合は総所得金額等の5%相当額とされています(国税庁 タックスアンサー No.1120)。
上限額と対象になる期間
控除として受けられる金額の上限は200万円とされています。対象になるのは、その年の1月1日から12月31日までに実際に支払った医療費で、未払いの分は含まれない点にも注意が必要です。
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生計を一にする家族の医療費をまとめて計算できる点は、世帯で医療費が多くかかった年に見落としやすいポイントです。共働き世帯では、所得の高い方にまとめる方が控除額を活かしやすいと言われることもありますが、家庭ごとの状況によって最適な組み方は異なります。
セルフメディケーション税制とは何か
セルフメディケーション税制は、対象となる市販薬(スイッチOTC医薬品)の購入費が一定額を超えた場合に、控除を受けられる制度です。対象商品はパッケージや領収書に識別マークが表示されているとされています(国税庁 タックスアンサー No.1129)。
控除額の計算と上限
控除額は「実際に支払った対象医薬品の購入費 − 12,000円」で計算し、上限は88,000円とされています。保険金などで補填された部分は差し引いて計算します。
適用に必要な「一定の取組」
この制度を利用するには、申告者本人が健康の保持増進や疾病の予防への取組を行っていることが条件です。具体的には、健康診査(人間ドックや各種健診)、予防接種、定期健康診断、特定健康診査・保健指導、がん検診のいずれかが該当するとされています(国税庁 タックスアンサー No.1129)。人間ドックやがん検診の費用そのものは医療費控除の対象になりにくい一方で、セルフメディケーション税制では「取組をした証拠」として活用できる点は、押さえておきたい違いです。
この制度は令和8年(2026年)12月31日までの時限的な措置として運用されているとされています。制度の延長や見直しが行われる可能性もあるため、申告の前に国税庁の最新情報を確認することをおすすめします。
どちらを選ぶか——選択適用の考え方
医療費控除とセルフメディケーション税制は、同じ年に両方を適用することはできません。どちらか一方を選ぶ「選択適用」の関係にあるとされています(国税庁 タックスアンサー No.1131)。
注意したいのは、セルフメディケーション税制の対象にならない医療費が、通常の医療費控除の基準額(10万円または所得の5%)を超えていたとしても、セルフメディケーション税制を選んだ場合は通常の医療費控除を併せて受けることはできないという点です。この点を見落とすと、選び方によって控除額が変わってしまう可能性があります。
どちらが有利になりやすいかは、年間の医療費全体の額や、対象医薬品の購入額によって変わります。おおまかな考え方を整理します。
- 医療費全体が多い年:通院・入院・治療費などの合計が10万円(所得により変動)を大きく超える場合は、通常の医療費控除の方が控除額が大きくなりやすいと考えられます。
- 市販薬の購入が中心の年:通院は少ないものの、対象医薬品の購入が12,000円を超える場合は、セルフメディケーション税制が選択肢になりえます。
- 迷う場合:両方の金額を仮に計算し、控除額が大きくなる方を選ぶという考え方もありますが、最終的な判断や個別の適用可否は税務署や税理士に確認することをおすすめします。
いずれの制度も、正確な判断には家計全体の支出の把握が欠かせません。無理に自己判断せず、迷う点は専門家に相談する姿勢が安心につながります。
申告の進め方と準備しておきたいもの
医療費控除もセルフメディケーション税制も、年末調整では受けられず、確定申告での手続きが必要とされています。会社員であっても、これらの控除を受けたい場合は自分で確定申告書を提出する必要があります。
申告の際は、領収書そのものではなく「医療費控除の明細書」を作成して提出する形が基本です。ただし、領収書は自宅で5年間保存しておく必要があるとされ、税務署から提示や提出を求められる場合があります。セルフメディケーション税制を選ぶ場合は、これに加えて健康の取組を行ったことを明らかにする書類(健診結果通知書や領収書など)も必要になります。
確定申告はe-Taxを使えば自宅からオンラインで完結でき、還付申告であれば、その年の翌年1月1日から5年間提出できるとされています(国税庁 タックスアンサー No.2030)。「去年の申告を忘れていた」という場合でも、期限内であればさかのぼって手続きできる可能性がある点は、覚えておくと安心です。
よくある質問
医療費が10万円に届かなくても医療費控除を受けられますか?
所得によっては受けられる可能性があります。総所得金額等が200万円未満の場合、基準額は10万円ではなく総所得金額等の5%相当額とされているため、10万円未満でも対象になりうるケースがあります。
市販薬を買った場合、医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらを使うべきですか?
一概には言えません。通院や入院を含めた医療費全体が多い年は通常の医療費控除、対象医薬品の購入が中心の年はセルフメディケーション税制が選択肢になりやすいとされていますが、実際の控除額は家庭ごとに異なるため、両方を試算したうえで判断することをおすすめします。
健康診断や人間ドックの費用は対象になりますか?
原則として医療費控除の対象にはなりにくいとされています。ただし、健診の結果重大な疾病が発見され、引き続き治療を受けた場合は、その検査費用も対象になりうるとされています。
会社員でも確定申告が必要ですか?
必要とされています。医療費控除・セルフメディケーション税制のいずれも年末調整では対応されないため、給与所得者であっても控除を受けるには確定申告が必要です。
家族の医療費もまとめて申告できますか?
生計を一にする配偶者や親族のために支払った医療費であれば、まとめて計算できるとされています。誰の名義でまとめるかによって控除額の有利・不利が変わる場合もあるため、迷う場合は税理士や税務署に相談することをおすすめします。
まとめ
医療費控除は治療を目的とした支出を対象とし、10万円または所得の5%という基準額を超えた部分が控除の対象になりうる制度です。セルフメディケーション税制は対象医薬品の購入費が12,000円を超えた場合に控除を受けられる特例で、健康の取組が条件になり、上限は88,000円とされています。両制度は選択適用の関係にあり、同じ年に併用はできません。どちらの制度も、対象になるかどうかや有利な選び方は個別の状況によって変わるため、判断に迷う場合は税務署や税理士に確認することが大切です。
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の税務判断や確定申告の可否を保証するものではありません。具体的な適用可否や有利な選択については、税務署または税理士にご確認ください。
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参考文献
- 国税庁 タックスアンサー No.1120「医療費控除の対象となる医療費の要件」
- 国税庁 タックスアンサー No.1122「医療費控除の対象となる医療費」
- 国税庁 タックスアンサー No.1122 Q&A「人間ドック・健康診断等の費用」
- 国税庁 タックスアンサー No.1129「セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)」
- 国税庁 タックスアンサー No.1131「医療費控除とセルフメディケーション税制(医療費控除の特例)との選択適用」
- 国税庁 タックスアンサー No.2030「還付申告」
編集:Wellstate編集部/監修:準備中
