「何のために毎日を過ごしているのか分からない」「定年後、急に張り合いがなくなった気がする」。年齢や環境の変化のなかで、こうした感覚を抱くことは珍しくありません。結論から言えば、「生きがい」や人生の目的意識は、健康や寿命との関連が国内外の研究で報告されています。ただし生きがいがあれば長生きできると言い切れるわけではなく、健康だから活動的でいられるという逆方向の可能性も指摘されています。この記事では、生きがいと健康について以下のポイントを中心に解説します。

生きがいとは?世界が注目する日本発の概念

生きがいとは、日々の暮らしに感じる張り合いや、生きていることの手応えを指す言葉です。英語には一語で対応する訳語がなく、近年は「ikigai」としてそのまま国際的な研究テーマになっています。もともとは精神科医の神谷美恵子氏らによって論じられてきた概念で、大きな夢や社会的な成功だけを指すものではありません。仕事のやりがいから、家族との時間、趣味、ペットの世話まで、人によって中身は大きく異なります。

生きがいがある人は健康的、というより、生きがいと健康は互いに影響し合う関係だと考えられています。

疫学研究では、生きがいの有無を「あなたは生きがいを感じていますか」といった簡単な質問への自己申告で測ることが一般的です。壮大な人生の目的でなくても、本人が「ある」と感じていれば、それが研究上の生きがいとして扱われます。次の章では、この生きがいと健康の関連を調べた代表的な研究を見ていきます。

生きがいと健康の関連はどこまでわかっているか

生きがいと死亡リスクの関連を調べた研究として広く知られているのが、宮城県で行われた大崎国民健康保険加入者コホート研究です。国内外の代表的な研究を比較すると、次のような結果が報告されています。

研究 対象・追跡期間 主な結果
大崎コホート研究(Sone et al., 2008) 日本人成人43,391名、7年間追跡 「生きがいなし」群は「あり」群に比べ全死亡リスクが約1.5倍。心血管疾患死亡は約1.6倍
米国 Health and Retirement Study(Alimujiang et al., 2019) 50歳以上6,985名、平均約4年間追跡 人生の目的意識が最も低い群は、最も高い群に比べ全死亡リスクが約2.4倍

いずれの研究も、生きがいや人生の目的意識が低いと自己申告した群で、死亡リスクが統計的に高く出ています。特に大崎コホート研究では、心血管疾患や事故・自殺などの外因死との関連が目立つ一方、がん死亡との明確な関連は確認されていません。これは生きがいが病気そのものを防ぐというより、生活習慣や心身の状態全体を通じて働いている可能性を示唆します。

相関と因果の違いに注意したいこと

ここで大切なのは、これらの結果が「関連」であって「因果」を証明したものではない点です。生きがいがあるから健康になるのか、健康だから生きがいを持てるのか、研究だけでは区別しきれません。

「健康だから生きがいを持てる」可能性も

体調がよく行動できる人ほど、仕事や趣味に取り組みやすく、結果として生きがいを感じやすいと考えられます。逆に持病や痛みで外出がままならない場合、生きがいを感じにくくなることもあります。つまり健康状態が生きがいの土台になっている面も無視できません。

交絡因子の影響も考えられる

社会参加の機会や経済状況、家族関係などは、生きがいと健康の両方に影響する交絡因子になり得ます。例えば地域とのつながりが豊かな人は、生きがいを感じやすく、かつ生活習慣や受診行動も整いやすい傾向があるかもしれません。研究結果は年齢や基礎疾患などを統計的に調整していますが、すべての要因を完全に取り除くことは難しいとされています。

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生きがいは大きなものでなくていい

「生きがいを持たなければ」と気負う必要はありません。研究で扱われる生きがいは、壮大な人生の目的ではなく、日々の小さな役割や関心で十分とされています。年金シニアプラン総合研究機構の調査データを用いた分析でも、生きがいの源は年代によって異なり、人間関係のなかに生きがいを感じる人ほど精神的健康が良好な傾向が示されています。次のような視点から、無理なく振り返ってみてください。

大きな目標を掲げなくても、こうした小さな手応えの積み重ねが、生きがいとして働くと考えられています。今この瞬間に意識を向ける練習は、こうした小さな生きがいに気づく助けになることがあります。詳しくはマインドフルネスの始め方もあわせてご覧ください。

生きがいが持てないときに気をつけたいこと

生きがいが見つからない状態は、欠陥でも失敗でもありません。子育てや介護、闘病、転職や離婚といった人生の転機では、自分のことを考える余裕自体がなくなるのが自然です。「今は生きがいどころではない」という時期があってよいと考えられています。

一方で注意したいのは、意欲や興味そのものが失われる状態です。うつ病の代表的な症状として、一日中気分が落ち込む、何をしても楽しめないといった状態が挙げられています。これは「生きがいが見つからない」というより「何にも関心が向かない」に近く、本人の性格や努力の問題ではありません。こうした状態が2週間以上続く場合や、睡眠・食欲の変化を伴う場合は、自己判断せず医療機関や心療内科、精神科に相談することが大切です。気分の落ち込みや不安が強いときのセルフケアは不安を和らげるセルフケアガイドもご参照ください。

よくある質問

生きがいは必ず見つけなければいけませんか。

必ず見つける必要はありません。人生の時期によって持てないこともあり、それ自体は問題ではないと考えられています。焦らず、日々の小さな関心や役割から振り返ってみてください。

生きがいがあれば必ず長生きできますか。

そう言い切ることはできません。生きがいと寿命の関連を示す研究はありますが、健康だから生きがいを持てるという逆方向の可能性や、他の要因の影響も考えられています。

定年後に生きがいを失ったように感じます。どうすればよいですか。

役割の変化に戸惑うのは自然な反応です。地域活動や軽い運動、これまでと違う人との交流など、小さな接点から少しずつ広げていく方法が考えられます。

生きがいと「幸福感」「ウェルビーイング」は同じ意味ですか。

厳密には異なる概念です。幸福感がその時々の気分に近いのに対し、生きがいは「生きている手応え」に近く、必ずしも楽しい感情だけを伴うとは限りません。

子育てや介護で忙しく、自分の生きがいを考える余裕がありません。

それも一つの自然な状態です。無理に「自分の生きがい」を探そうとせず、今できている小さなことを認めることから始めてよいと考えられています。

気分の落ち込みが続いていて何にも興味が持てません。これも「生きがいがない」状態でしょうか。

意欲や興味そのものが失われている場合は、うつ病などの症状である可能性があります。生きがい探しの前に、まず医療機関へ相談することをおすすめします。

まとめ

生きがいや人生の目的意識は、大崎コホート研究をはじめとする複数の研究で健康や死亡リスクとの関連が報告されています。ただしこれは相関関係であり、健康だから生きがいを持てるという逆方向の可能性や、社会参加などの交絡因子も考えられます。生きがいは壮大な目標でなくてよく、日課や役割、人とのつながりといった小さなものの積み重ねで十分とされています。見つからない時期があってもそれ自体は問題ではありません。意欲や興味そのものが失われる、気分の落ち込みが続くといった変化がある場合は、自己判断せず医療機関に相談することが大切です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能や治療を保証するものではありません。気分の落ち込みや意欲の低下が続く・つらい場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

参考文献

編集:Wellstate編集部/監修:準備中