「夏の夜、エアコンをつけずに我慢して寝てしまう」「冬、脱衣所が寒くてお風呂に入るのが億劫」。こうした日常のちょっとした我慢が、実は命に関わる事故につながることがあります。結論から言えば、熱中症もヒートショックも、屋外の特別な状況ではなく、自宅の中で起こりやすい問題です。室温の目安を知り、季節ごとの備えをしておくことで、多くの事故は防げると考えられています。

本記事では、暑さ・寒さと体調について以下のポイントを中心に解説します。

ぜひ最後までお読みください。

なぜ「室温」が体調を左右するのか

暑さ・寒さによる健康被害は屋外での事故というイメージを持たれがちですが、熱中症もヒートショックも、住み慣れた自宅の中で起こることが少なくありません。

熱中症とヒートショックは、実は「表裏一体」の問題

熱中症は夏、ヒートショックは冬の問題として、別々に語られることが多くあります。しかし共通しているのは、どちらも急激な体温や血圧の変化に体がついていけないことで起こるという点です。室温という一つの軸で両方を理解しておくと、季節をまたいだ備えがしやすくなります。

熱中症もヒートショックも、真夏や極寒の屋外だけでなく、いつもの部屋やお風呂で起こりうる身近な問題です。

命に関わる問題だからこそ、正しい知識を

この記事のテーマは、我慢や気合いでどうにかなるものではありません。消防庁や消費者庁の統計でも、深刻な事故は特定の季節・場所・年齢層に偏って起きていることが分かっています。まずは公的機関が示す数値をもとに、季節ごとの備えを具体的に見ていきます。

冬の室温の目安|WHOの18℃ガイドラインと建築物衛生法

冬の寒さ対策は、「厚着をする」だけでなく、部屋そのものの温度を目安のなかに保つ視点が重要です。

WHOが示す「冬季の室温は18℃以上」という目安

WHO(世界保健機関)は2018年公表の住宅と健康に関するガイドラインで、寒さによる健康被害を防ぐため、温帯から寒冷な気候の国では冬季の室内温度を18℃とすることを提案しています。高齢者や子ども、呼吸器・循環器に持病がある人は、18℃よりさらに高い室温が必要な場合があるとも述べられています。

日本の建築物衛生法も18℃に基準を引き上げ

日本では、建築物衛生法がオフィスビルなど一定規模以上の建築物の室温基準を定めています。2022年4月の改正で、この基準は「17℃以上28℃以下」から「18℃以上28℃以下」に引き上げられました。オフィスビル等が対象で住宅への直接の適用はありませんが、家庭で室温を考えるうえでも参考にできる数値です。

室温が低いと血圧が上がりやすいとの報告も

起床時の室内温度が低いほど血圧が高くなりやすい傾向が、複数の調査で報告されています。寒さの我慢が血管や心臓への負担につながっている可能性があります。室内環境の整え方は室内の空気環境|二酸化炭素濃度・湿度・換気の基本もあわせてご覧ください。

冬の入浴事故を防ぐ|ヒートショックと低体温症

冬の住まいで特に注意したいのが、入浴に関わる事故です。

ヒートショックとは何か

ヒートショックとは、急激な温度変化によって血圧が大きく変動し、体に大きな負荷がかかる状態を指すとされています。失神や不整脈につながることがあり、暖かい部屋から寒い脱衣所、熱い湯船へと急に移動する冬の入浴は典型的な危険場面です。消費者庁の資料では、高齢者の不慮の溺死・溺水による死亡者数は交通事故死者数を上回る水準で推移しており、住宅の浴槽での事故は11月から4月に集中しています。

脱衣所・浴室を暖め、湯温と入浴時間を守る

消費者庁と健康長寿ネットは、入浴前に脱衣所や浴室を暖めること(シャワーの蒸気で暖める方法も有効です)、湯温41℃以下・10分までを目安にすること、湯船から急に立ち上がらないことを呼びかけています。一人で入浴する際は、家族に一声かけてから入るとよいでしょう。

飲酒後・食後すぐの入浴は避ける

飲酒後の入浴は、事故死につながるリスクが指摘されています。アルコールには血管を広げ血圧を一時的に下げる働きがあり、判断力の低下と合わせて転倒や溺水のリスクを高めると考えられています。食後すぐや医薬品服用後の入浴も避けてください。安全な入浴の温度・時間の目安は、入浴の効果を引き出す温度・時間・タイミングで解説しています。

屋内でも起こる低体温症

低体温症は雪山など特別な環境だけで起こるものではありません。暖房が不十分な室内で長時間過ごすだけでも、体温が徐々に下がり低体温症に至ることがあると考えられています。高齢者は寒さや体温の変化を自覚しにくく、気づかないうちに体が冷えていることがあります。動きが鈍い、受け答えがはっきりしない様子があれば、早めに暖かい部屋へ移動し医療機関に相談してください。

夏の備え|暑さ指数(WBGT)を毎日チェックする習慣

夏の熱中症対策では、気温だけでなく「暑さ指数」を確認する習慣が役立ちます。

気温だけでは分からない「暑さ指数」

暑さ指数(WBGT)は、気温・湿度・輻射熱(日射や地面からの熱)の3要素から算出される指標です。気温が同じでも湿度や日射の状況で熱中症のリスクは変わるため、環境省は気温だけに頼らず暑さ指数を確認するよう推奨しています。

警戒レベル 暑さ指数(WBGT)の目安 とるべき行動の目安
ほぼ安全 21未満 適時、水分を補給する
注意 21〜25未満 積極的に水分を補給する
警戒 25〜28未満 積極的に休息をとる
厳重警戒 28〜31未満 激しい運動は中止する
危険 31以上 運動は原則中止する

熱中症警戒アラートの仕組み

熱中症警戒アラートは、翌日または当日の日最高暑さ指数(予測値)が33に達すると見込まれる場合に、府県予報区等の単位で発表されます。発表時は、屋内でエアコン等を適切に使い涼しい環境で過ごすこと、こまめな休憩と水分・塩分補給、高齢者や子どもへの見守りと声かけが呼びかけられます。天気予報とあわせて確認する習慣をつけておくとよいでしょう。

見落としがちな「屋内・夜間」の熱中症

熱中症は炎天下の屋外だけで起こるわけではありません。消防庁の令和6年の統計では、救急搬送者の発生場所は住居が最多で全体の38.0%(37,116人)、年齢区分別では高齢者が57.4%(55,966人)と半数以上を占めています。住居内・高齢者という組み合わせは、特に注意すべき場面です。

エアコンを我慢しないことが最優先

「電気代がもったいないから」とエアコンの使用を控えることは、熱中症のリスクを大きく高める可能性があります。命に関わる暑さの中では、電気代を理由に我慢することはおすすめできません。設定温度を無理に下げる必要はなく、サーキュレーターと併用しながら、快適だと感じる温度を保つことが基本です。

今の生活で整えたいテーマが暑さ対策なのか、それ以外の生活習慣なのか迷う方は、無料のセルフチェックで確認してみてください。

高齢者は「のどの渇き」を感じにくい

加齢に伴い、体の水分量が減少し、のどの渇きを感じる感覚も鈍くなりやすいと考えられています。本人が「まだ大丈夫」と感じていても、体内では脱水が進んでいることがあります。周囲の家族が時間を決めて水分補給や室温を確認するなど、本人の自覚だけに頼らない声かけが役立ちます。

夜間・就寝中の熱中症にも注意

就寝中は自分で異変に気づきにくく、暑さを感じても対処できないまま体調が悪化することがあります。就寝時にエアコンを切ると夜間から明け方にかけて室温が上がり続けることがあるため、タイマーだけに頼らず、つけたまま眠ることも選択肢の一つです。

熱中症になったら|応急処置と119番を呼ぶ目安

熱中症が疑われる場面では、迷わず行動できるよう、応急処置の手順と救急要請の目安を知っておくことが大切です。

まず涼しい場所へ移動し、体を冷やす

めまいや立ちくらみ、大量の汗、力が入らないといった症状に気づいたら、まず涼しい場所へ移動させ、衣服をゆるめます。首まわり・脇の下・太ももの付け根など太い血管が通る部分を、水や保冷剤で冷やすことが有効とされています。意識がはっきりしていて自力で水分をとれる場合は、塩分を含んだ飲料で水分と塩分を補給します。

迷わず119番を呼ぶべきサイン

次のいずれかに当てはまる場合は、自己判断で様子を見ず、ためらわずに救急車を呼んでください。

これらのサインが一つでもあれば、様子を見ようとせず119番へ連絡することが、命を守る最優先の行動です。環境省のサイトでは応急処置の手順を図解したチェックシートも公開されています。

費用の階段で選ぶ、室温を整える対策

室温を整える対策は、必ずしも大きな出費を伴うものばかりではありません。無料でできることから順に試し、必要に応じて費用のかかる対策を検討することをおすすめします。

エアコンの費用が心配なときは

経済的な事情でエアコンの購入や使用をためらう場合は、一人で抱え込まず自治体の支援制度を確認することをおすすめします。高齢者や低所得世帯向けの助成制度がある自治体もあります。また気候変動適応法にもとづき、多くの市区町村が公民館や図書館などを「クーリングシェルター」として指定しており、暑い時間帯を過ごす場所として活用できます。詳しくはお住まいの自治体の窓口で確認してください。

よくある質問

エアコンの設定温度は何度が目安ですか?

環境省が示す室温28℃は冷やしすぎを防ぐための参考値であり、無理な我慢の基準ではありません。暑さ指数や体感に応じ、涼しく感じる設定を優先してください。高齢者や子どもがいる家庭では特に、我慢せず涼しい環境を保つことが大切です。

電気代が心配で、エアコンの使用をためらってしまいます。

命に関わる暑さの中では、電気代を理由に我慢することはおすすめできません。サーキュレーターの併用や日射を遮る工夫で電気代を抑えつつ、必要なときは我慢せず使うことが基本です。負担が大きい場合は、自治体の支援制度や涼み処の利用も検討してみてください。

湯船に入るのは体に良くないのでしょうか?

入浴そのものが悪いわけではなく、温度差と入り方に注意すれば安全に楽しめると考えられています。脱衣所・浴室を暖める、湯温41℃以下・10分以内、飲酒後は避けるといった基本を守ることが重要です。詳しくは入浴の効果を引き出すもご覧ください。

冬に窓を開けて換気すると、室温が下がって心配です。

数分間の短い換気であれば、室温の低下は限定的とされています。換気後は暖房で室温を戻せば、こまめな換気と室温維持は両立できます。換気の具体的な方法は室内の空気環境で解説しています。

持病がある場合や子どもがいる場合、特に気をつけることはありますか?

心臓や血管、呼吸器に持病がある方、体温調節機能が未発達な子どもは、寒暖差や脱水の影響を受けやすいとされています。WHOのガイドラインでも、こうした方にはより高い室温が必要な場合があるとされています。自己判断で決めず、主治医に室温管理や入浴方法を相談しておくと安心です。

まとめ

熱中症もヒートショックも、屋外や特別な状況だけでなく、住み慣れた自宅の中で起こりうる身近な問題です。冬はWHOが示す18℃という室温の目安を意識し、脱衣所や浴室を暖め、湯温と入浴時間を守ることが対策の基本になります。夏は気温だけでなく暑さ指数(WBGT)を確認し、電気代を理由にエアコンを我慢しないことが何より重要です。意識がおかしい、自力で水分をとれないといったサインがあれば、ためらわず119番へ連絡してください。費用のかかる対策は無料からできることを段階的に検討し、負担が大きい場合は自治体の支援制度も確認してみてください。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能や治療を保証するものではありません。体調に異変を感じた場合や、持病をお持ちの場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。命に関わる症状が疑われる場合は、ためらわず119番へ連絡してください。

参考文献

編集:Wellstate編集部/監修:準備中