「同じような出来事なのに、平気そうにしている人と、しばらく立ち直れない自分がいる」「一度つまずいてから、なかなか元のペースに戻れない」。こうした違いを前にすると、つい自分の"弱さ"のせいだと考えてしまいがちです。結論から言えば、折れやすさ・折れにくさの違いは生まれ持った強さの差ではなく、頼れる関係や使える資源、置かれている環境との組み合わせから生まれると考えられています。本記事では、レジリエンスについて以下のポイントを中心に解説します。

ぜひ最後までお読みください。

レジリエンスとは何か

レジリエンスとは、逆境やストレスの多い状況にさらされたあとも、うまく適応していく過程を指す言葉です。もとは「弾力性」「回復力」を意味する工学・物理の用語で、心理学では1970年代以降、逆境の中でも育つ子どもたちの研究から使われるようになったとされています。

かつては「特性」として語られていた

初期の研究では、レジリエンスは「打たれ強い性格」のような個人の特性として扱われる傾向がありました。この見方は「レジリエンスが高い人・低い人がいる」という単純な区分につながりやすく、結果として「低い人の努力不足」という誤解も生みやすかったと考えられています。

いまは「プロセス」として理解されている

近年の研究レビューでは、レジリエンスを固定的な特性というより、能力・過程・結果という複数の側面を持つ概念として整理する立場が広がっています。米国の心理学者アン・マステンは、逆境の中で適応がみられる現象について「特別な英雄的資質からではなく、人間の発達を支えるごくありふれた仕組みの働きから生まれる」という趣旨の指摘をしており、この考え方は「ありふれた魔法(ordinary magic)」と呼ばれています。つまりレジリエンスは、一部の特別な人だけが持つ才能ではなく、多くの人に備わる仕組みが条件次第で働くかどうかの問題だと理解されています。

レジリエンスは、特別に強い人だけが持つ才能ではなく、ありふれた仕組みが条件次第で働くかどうかの問題だと考えられています。

この「条件次第」という部分が、次章のテーマである保護要因につながります。ストレス反応そのものの仕組みについては、関連記事「急性ストレスと慢性ストレス」で詳しく整理しています。

折れにくさを支える保護要因

レジリエンス研究では、逆境の影響をやわらげる働きをするものを「保護要因」と呼びます。保護要因は個人の内側にあるものだけでなく、関係性や環境の側にも存在するとされています。代表的な分類を整理すると、次のようになります。

分類 具体例 働き方の考え方
関係的要因 信頼できる家族・友人・同僚の存在 安心して弱さを見せられる相手がいることが、回復の土台になると考えられています
認知的要因 自己効力感、出来事の意味づけ 「自分にも対処できる」という感覚や、出来事に意味を見出す力が支えになるとされています
身体的要因 睡眠・栄養・自律神経の土台 心身の余力があるほど、出来事への反応に選択の幅が生まれやすいと考えられています
環境的要因 使える資源、安全な環境、裁量の余地 個人の努力だけでなく、環境側に選べる余地があることが回復を左右するとされています

米国の研究者ファーガスとジマーマンによる青年期のレジリエンス研究の枠組みでも、個人の資質だけでなく家族・学校・地域といった外部の資源が保護要因として重視されています。つまり保護要因は、本人が一人で作り出すものではなく、周囲との関係の中で育まれるものだと理解しておくことが大切です。

「個人の強さ」に還元しないという視点

レジリエンスというと「メンタルが強い人」という個人のイメージに結びつけられがちですが、これはレジリエンス研究の知見とは距離があります。研究が示してきたのは、レジリエンスが個人特性というより、関係・資源・環境との相互作用から生まれる現象だということです。

折れたのは、弱いからではない

同じ出来事でも、支えてくれる人がいるか、休める環境があるか、選べる選択肢が残されているかによって、その後の経過は大きく変わり得ます。折れてしまった背景に、頼れる関係の不足や、余力を奪う環境があったのであれば、それは本人の弱さの証明ではなく、条件が整っていなかったサインだと捉えるほうが実態に近いと考えられています。

職場のレジリエンス研修が抱える課題

近年は企業がレジリエンス研修を導入する例も増えています。しかし、環境や仕組みを変えないまま「個人の耐性を高めること」だけを求める形になると、過重な負荷を放置したまま従業員に適応を求めることにもなりかねません。職場向けレジリエンス介入に関する系統的レビューでも、レジリエンスは個人だけの課題ではなく、個人と組織が共に担う責任として捉える見方が広がりつつあると指摘されています。研修を受けること自体は役立つ場合がありますが、それだけで負荷の大きい環境をそのままにしてよい理由にはならない、という視点は持っておきたいところです。

折れた経験のあとに起こること(PTG)

つらい出来事や強い逆境を経験したあと、以前とは違う形で自分の価値観や人間関係が変化したと感じる人がいます。この現象は心理学で「心的外傷後成長(Posttraumatic Growth、PTG)」と呼ばれ、1990年代に心理学者テデスキとカルフーンらによって概念化されました。

PTGとは、何が変わることを指すのか

PTGは、他者との関係の深まり、新たな可能性への気づき、人間としての強さの実感、人生への感謝、精神性や実存的な意味づけの変化といった領域で語られることが多いとされています。これは苦痛が消えることとは別の話で、つらさを抱えたままでも、こうした変化が同時に生じ得るという考え方です。

「必ず成長する」わけではない

ここで誤解しやすいのが、「つらい経験をすれば誰でも成長できる」という受け止め方です。近年の研究では、本人が「成長した」と感じていても、実際の行動や心理状態には変化が乏しい「見かけ上の成長」であるケースが少なくないと指摘されています。真に確認できる成長は、自己申告される頻度に比べて稀であるという分析も報告されています。つまりPTGは、逆境を乗り越えた人に「成長していて当然」という新たな基準を課すための概念ではありません。成長が起きなくても、それは本人の問題ではないということを、あわせて理解しておく必要があります。

育てるためにできること

レジリエンスは特性ではなく過程だとすると、日々のかかわり方によって条件を整えていく余地があると考えられています。ただし「これをやれば必ずレジリエンスが上がる」と言い切れるものではなく、あくまで土台を整えるための視点として捉えてください。次のうち、できそうなものから取り入れてみてください。

これらは「頑張って身につける課題」というより、「整えられる条件を少しずつ増やしていく」という捉え方に近いものです。自分一人の努力に還元せず、周囲との関係の中で育てていく意識が大切だと考えられています。

気になる方は、無料のセルフチェックで「いま整えたいテーマ」を確認できます。

自分に対する接し方そのものを見直したい場合は、関連記事「セルフコンパッションとは」もあわせて参考にしてください。

注意点・受診の目安

レジリエンスという言葉は「乗り越えられて当然」という圧力に転化しやすい側面があるため、扱いには注意が必要です。無理に前向きに振る舞おうとしたり、つらさを感じること自体を否定したりする必要はありません。

気分の落ち込みが2週間以上続く、眠れない状態が続く、日常生活に支障が出ている、といった場合は、レジリエンスの工夫だけで対応しようとせず、早めに医療機関や専門機関に相談することが大切です。「こころの耳」など、働く人やその家族向けの電話・SNS相談窓口も用意されています。

よくある質問

レジリエンスは生まれつき決まっていますか?

生まれつきの気質が関わる部分はあるとされていますが、それだけで決まるものではないと考えられています。関係・資源・環境との相互作用によって変化し得る過程として理解されています。

レジリエンスが高い人は落ち込まないのですか?

そうとは限りません。レジリエンスは「傷つかないこと」ではなく、つらさを抱えながらも時間をかけて適応していく過程を指すと考えられています。

職場のレジリエンス研修だけで十分ですか?

研修が役立つ場合はありますが、それだけでは十分でないと考えられています。過重な業務量や体制など、環境側の要因を見直すことも合わせて必要です。

PTG(心的外傷後成長)は誰にでも起こりますか?

必ず起こるものではないとされています。成長が感じられなくても、それは本人の弱さや対処の失敗を意味するものではありません。

子どものレジリエンスはどう育まれますか?

特別な訓練よりも、信頼できる大人との安定した関係や、安心できる生活環境が土台になると考えられています。

まとめ

レジリエンスは、一部の強い人だけが持つ特別な才能ではなく、関係・資源・環境との相互作用から生まれる過程だと考えられています。折れやすさの違いを個人の弱さのせいにせず、頼れる関係や環境の条件を少しずつ整えていく視点が大切です。心的外傷後成長も「必ず起こるべきもの」ではありません。つらさが長く続く場合は、一人で抱え込まず医療機関や相談窓口に頼ってください。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能や治療を保証するものではありません。気分の落ち込みや不調が続く・つらい場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

参考文献

編集:Wellstate編集部/監修:準備中