「家と職場を往復するだけで、平日はほとんど終わってしまう」「休日も特に行く場所が思いつかず、結局家で過ごしている」。そんな感覚に心当たりがある方は、少なくないのではないでしょうか。結論から言えば、家でも職場でもない「第三の場所」を持つことは、アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグが提唱した考え方であり、そこでの人との緩やかな関わりは、社会参加に関する健康研究とも関連づけて語られることが増えています。本記事では、サードプレイスについて以下のポイントを中心に解説します。

ぜひ最後までお読みください。

サードプレイスとは何か|社会学が示す「第三の場所」

サードプレイスとは、家(ファーストプレイス)でも職場(セカンドプレイス)でもない、第三の居場所を指す言葉です。アメリカの社会学者レイ・オルデンバーグが著書『The Great Good Place』の中で提唱した概念で、カフェやパブ、床屋、公園のベンチなどを例に、そこでの何気ない交流がコミュニティを支えると論じました。オルデンバーグは、サードプレイスの条件として「中立的な立場で誰でも出入りできる」「地位や肩書きに関係なく対等に過ごせる」「会話そのものが目的になる」「特別な予定がなくてもふらっと立ち寄れる」といった特徴を挙げています。

サードプレイスの価値は、深い関係を築くことではなく、挨拶だけで成立する「ゆるいつながり」にあります。

ここで大切なのは、これはあくまで都市計画や社会学の分野で生まれた概念だという点です。日本でも、職場周辺のサードプレイスに着目した都市計画分野の研究があり、通勤経路上にある居場所の重要性が論じられています[1]。次の章からは、この社会学的な考え方とは別に、「場を持つこと」や「社会参加」が健康とどう関連づけられているのかという、疫学・老年学分野の研究に話を移します。

なぜ「場を持つこと」が健康と関連づけられているのか

サードプレイスという概念そのものは健康研究の産物ではありませんが、それと隣接する「社会参加(social participation)」というテーマでは、健康アウトカムとの関連を調べた研究が積み重ねられています。ここでは概念の話と研究の話を混同しないよう、区別して整理します。

日本の高齢者を対象にした全国規模の追跡調査では、地域の集まりやサークルなどへの社会参加の頻度が変化した人を追跡した結果、参加頻度が高い状態を保っていた人ほど、その後の総死亡リスクが低い傾向にあったと報告されています[2]。また、高齢者を対象とした別の追跡研究では、社会的な活動量が多い人ほど、その後の認知機能の低下がゆるやかだったという関連も示されています[3]

ただし、これらはいずれも観察研究であり、「社会参加が原因で健康リスクが下がる」と因果関係を断定できるものではありません。もともと外出しやすい体力や意欲がある人ほど社会参加しやすい、という逆の可能性も考えられます。とはいえ、家と職場以外に定期的に身を置く場があることは、体を動かす機会や人との緩やかな接点を自然に増やす面があると考えられています。

「弱いつながり」が幸福感に効くという研究

サードプレイスを考えるうえで欠かせないのが「弱いつながり(weak ties)」という視点です。弱いつながりとは、家族や親友のような深い関係ではなく、行きつけの店の店員や、同じ時間帯に居合わせる顔見知り程度の関係を指します。

弱いつながりと日々の幸福感の関連

弱いつながりとの交流は、その日の主観的な幸福感と関連づけられています。カナダの研究者らが行った調査では、1日のうちで顔見知り程度の相手と交流した回数が多い日ほど、参加者が報告する幸福感が高い傾向にあったとされています[4]。深い関係を新しく築かなくても、日常の中の軽い接点が積み重なること自体に意味があると考えられている点は、人見知りの方にとって心強い材料といえます。

日本での「サードプレイスと幸福感」研究

日本国内でも、サードプレイスの利用と主観的幸福感の関連を調べた研究があります。土木計画学分野の調査では、通勤・通学の経路上にサードプレイスを持つ人ほど、主観的幸福感が高い傾向が見られたと報告されています[5]。生活動線から無理なく立ち寄れる場所であることが、続けやすさの鍵になっている可能性があります。

サードプレイスは飲食店だけではない|身近な選択肢

「サードプレイス」と聞くと、行きつけのカフェやバーを思い浮かべる方が多いかもしれません。ですが、選択肢はそれだけではありません。お金をかけずに始められる場所も数多くあります。

カテゴリ 具体例 費用の目安
公共施設 図書館、公民館、公園 無料
地域の居場所 コミュニティカフェ、こども食堂 無料〜数百円
入浴・休養施設 銭湯、日帰り温浴施設 数百円〜
運動・趣味の場 ジム、スポーツサークル、習い事の教室 無料〜月額制
社会参加の場 ボランティア活動、地域行事の手伝い 無料
オンライン 趣味のオンラインコミュニティ、SNSのグループ 無料〜低額

国も孤独・孤立対策の一環として、地域におけるNPO等の居場所づくりの取り組みを後押ししています[6]。こども食堂やコミュニティカフェのように、費用をかけずに立ち寄れる地域の居場所は、各地で少しずつ広がっています。

人見知り・地方在住・忙しい人のための始め方

サードプレイスというと「常連になって顔なじみを作る」というイメージが先行しがちですが、そこまでしなくても始められます。

人見知りの方へ|常連にならなくてもかまいません

人見知りの方は、会話をしない場所から始めることをおすすめします。図書館や銭湯、ジムのように、その場にいるだけで成立する場所であれば、誰かと話す義務はありません。挨拶を交わす程度の関係でも、前章で触れた「弱いつながり」の一種として意味があると考えられています。

地方在住の方へ|移動が要らない選択肢もあります

地方在住で近隣に店が少ない場合は、公民館や図書館などの公共施設、地域のボランティア活動が現実的な選択肢になります。移動時間がかからないオンラインコミュニティを組み合わせることも一つの方法です。

忙しい方へ|短時間・低頻度から始めてみてください

時間がない方は、毎週通うことを目標にしなくてもかまいません。月に数回、通勤経路の途中にある公園や図書館に立ち寄るだけでも、生活動線に無理なく組み込みやすくなります。

「自分にはどんな居場所が合っているか分からない」という方は、無料のセルフチェックで今の生活を整理してみるのも一つの方法です。

オンラインはサードプレイスになりうるか

オンラインのコミュニティがサードプレイスになりうるかは、意見が分かれるテーマです。オルデンバーグが想定していたのは対面の物理的な場所であり、身振りや表情、その場の空気感を伴う交流でした。一方で、趣味のオンラインコミュニティやSNSのグループも、対等な立場で気軽に出入りでき、会話そのものが目的になりやすいという点では、サードプレイスの条件の一部を満たしているとも考えられます。

外出が難しい事情がある方や、地方在住で近隣に選択肢が少ない方にとって、オンラインの場が接点の入り口になる可能性は十分にあります。ただし、オンラインだけで完結させることが心身の健康にどこまで良い影響を与えるかについては、まだ研究の蓄積が十分とはいえません。オンラインと対面、どちらか一方に絞るのではなく、無理のない範囲で組み合わせる考え方が現実的といえるでしょう。

よくある質問

サードプレイスは1つに絞るべきですか。

絞る必要はありません。図書館と銭湯のように、複数の場所を気分や時間に応じて使い分けてもかまいません。

お金をかけずに始めるにはどうすればいいですか。

図書館や公園、公民館、こども食堂やコミュニティカフェなど、無料または低額で利用できる場所から始めることをおすすめします。

人と話すのが苦手でも意味がありますか。

意味はあると考えられています。会話をしなくても、その場にいる、挨拶を交わす程度の関わりも「弱いつながり」として幸福感と関連づけられています。

どのくらいの頻度で通えばいいですか。

決まった頻度はありません。月に数回程度から始めて、無理なく続けられるペースを見つけていくとよいでしょう。

オンラインのコミュニティだけでもいいですか。

オンラインだけで完結させることの効果は、まだ十分に分かっていません。対面の場と組み合わせることを検討してみてください。

家族や職場の人間関係とは何が違うのですか。

家族や職場は役割や立場が伴う関係ですが、サードプレイスは立場を離れて対等に過ごせる場という点が異なります。

まとめ

サードプレイスは、家でも職場でもない第三の居場所を指す社会学の概念です。この概念自体は健康研究の結果ではありませんが、隣接する社会参加というテーマでは、死亡リスクや認知機能との関連を示す研究が報告されています。深い関係を築く必要はなく、挨拶程度の「弱いつながり」でも幸福感と関連づけられており、図書館や公園、銭湯、ボランティア、オンラインコミュニティなど、お金をかけずに始められる選択肢も数多くあります。無理に常連になろうとせず、生活動線に合う場所から気軽に試してみてください。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能を保証するものではありません。強い孤独感や気分の落ち込みが続く場合は、自己判断せず医療機関や専門機関にご相談ください。

参考文献

編集:Wellstate編集部/監修:準備中