「終電で帰って、翌朝は定時に出社する日が続いている」「休んだはずの週明けから、もう疲れている」「残業時間は上限内に収まっているのに、体が回復しない」。働き方と体調の関係で見落とされやすいのが、退勤から次の出勤までに何時間空いているかという視点です。結論から言えば、労働時間の合計が同じでも、勤務と勤務の間隔が短いほど睡眠時間は削られやすく、回復の余地が失われると考えられています。この記事では、勤務間インターバル制度の仕組みと現在の位置づけ、なぜ11時間という数字が出てくるのかを1日の時間配分から確かめる方法、日本での導入がなぜ進まないのか、そして制度がない職場で個人ができることまでを順に整理します。

勤務間インターバルとは何か

勤務間インターバル制度とは、厚生労働省の定義によれば、労働者の健康確保などを目的として、実際の終業時刻から始業時刻までの間隔を一定時間以上空ける制度です。ポイントは「実際の終業時刻から」という部分にあります。就業規則上の終業時刻ではなく、実際に仕事を終えた時刻が起点になります。

日本では2019年4月から、労働時間等設定改善法にもとづく事業主の努力義務として位置づけられています。義務ではないため、導入していないこと自体に罰則はありません。ただし2025年10月の労働政策審議会の議論では、EUの基準を踏まえた11時間の確保を原則とする義務化が論点として取り上げられており、今後の制度変更が検討されている段階です。

残業時間の上限は「働きすぎ」を止める仕組みですが、勤務間インターバルは「眠る時間を残す」仕組みです。両者は別の問題を扱っています。

時間外労働の上限規制と混同されやすいのですが、両者は見ているものが違います。月の合計時間が上限内でも、特定の週に集中して深夜まで働けば、その週の睡眠時間は削られます。合計では測れない負荷を捉えるのが、インターバルという考え方です。

日本の導入状況(数字で見る現在地)

厚生労働省の令和7年就労条件総合調査(2025年1月1日現在)によれば、勤務間インターバル制度の導入状況は次のとおりです。

導入状況 令和7年調査 令和6年調査
導入している 6.9% 5.7%
導入を予定又は検討している 13.8% 15.6%
導入予定はなく、検討もしていない 78.7% 78.5%

導入企業は前年から1.2ポイント増えたものの6.9%にとどまり、約8割が検討すらしていません。導入している企業の1企業平均勤務間隔時間は10時間51分でした。

検討していない理由として最も多いのは「超過勤務の機会が少なく、当該制度を導入する必要性を感じないため」で57.3%を占めます。一方で「当該制度を知らなかったため」も15.7%あり、認知そのものが行き渡っていない状況がうかがえます。

ここで注意したいのは、「残業が少ないから不要」という判断が、平均で見た場合の話になっていないかという点です。全社平均の残業時間が少なくても、繁忙期の特定部署だけ深夜勤務が続いているなら、その部署にとってインターバルは必要な仕組みになります。

なぜ11時間なのか、1日を割り算して確かめる

11時間という数字は、EU労働時間指令で定められている国際的な基準を踏まえたものです。ただ「EUがそうだから」では自分の職場に当てはめて考えられません。1日の時間配分に落として確かめてみると、この数字の意味が具体的になります。

退勤してから次に出勤するまでの時間は、そのまま眠れる時間ではありません。間には次のようなものが挟まります。

通勤1.5時間、生活2時間、寝つき0.5時間で合計4時間。インターバルが11時間なら、残る睡眠可能時間は7時間です。これが9時間だと5時間、8時間なら4時間しか残りません。厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」では、成人の睡眠時間は6時間以上を目安とすることが推奨されています(個人差があります)。

つまり11時間という設定は、生活に必要な時間を差し引いたうえで、目安とされる睡眠時間を確保できるかどうかの境目に近い数字だと読めます。自分の職場で何時間が妥当かを考えるときは、平均的な通勤時間と生活時間を書き出して逆算してみると、根拠のある数字が出しやすくなります。

気になる方は、無料のセルフチェックで「いま整えたいテーマ」を確認できます。

間隔が短い状態が体に及ぼすこと

勤務間隔が短い状態が続くと、単に睡眠時間が短くなるだけでなく、体のリズムそのものが崩れやすくなると考えられています。

睡眠不足は「借金」のように積み上がる

1日の不足がわずかでも、続けば影響が蓄積すると考えられており、これは睡眠負債と呼ばれます。週末に長く眠っても、平日の不足が完全に相殺されるとは限らないとされています。「土日に寝だめしているから大丈夫」という感覚は、体の実感とずれていることがあります。

深夜まで働くと、体内時計がずれやすい

人の体は、朝に光を浴びて活動し、夜に休むというリズムを持っています。深夜に強い光を浴びながら作業する状態が続くと、このリズムと生活が合わなくなりやすく、寝つきの悪さや朝の不調として現れることがあります。勤務間隔が短いと、リズムを立て直す時間そのものが取れません。

緊張が抜けないまま次の勤務に入る

ストレスがかかると分泌されるコルチゾールは、本来は朝に高く夜に低くなるリズムを持つとされています。仕事の緊張が解けないまま帰宅し、短時間で再び出勤する状態が続くと、このリズムが乱れやすくなり、疲労感が抜けない、休んだ気がしないといった自覚につながることがあります。

制度がない職場で、個人ができること

約8割の企業が制度を検討していない以上、多くの人にとっては「制度がない前提で何ができるか」が現実的な問いになります。会社の仕組みは個人では変えにくいものの、間隔を守る側に寄せる工夫はいくつかあります。

これらは負荷そのものを減らす手段ではなく、影響をやわらげる工夫です。根本的には勤務間隔を空けられる業務量と人員配置が必要であり、個人の努力で埋められる範囲には限りがあります。

受診・相談の目安

次のような状態が続く場合は、働き方の調整だけでなく、医療機関への相談を検討してください。眠れない日が2週間以上続いている、休日に十分眠っても疲労感が取れない、気分の落ち込みや意欲の低下で日常生活に支障が出ている、動悸や息切れ、胸の痛みがあるといった場合です。

職場に産業医や保健師がいる場合は、まずそこに相談する方法があります。50人未満の事業場では産業医の選任義務がないことが多いため、その場合は地域産業保健センターなど、国が設けている無料の相談窓口を利用できることがあります。長時間労働が常態化している場合は、労働基準監督署に相談することもできます。

よくある質問

勤務間インターバル制度は義務ですか?

2026年時点では、労働時間等設定改善法にもとづく事業主の努力義務です。導入していないこと自体に罰則はありません。ただし義務化に向けた議論が進んでおり、今後の制度変更が検討されている段階です。

何時間に設定するのが適切ですか?

厚生労働省は9時間から11時間の範囲で設定する例を示しており、11時間はEU労働時間指令の基準を踏まえた数字です。適切な時間は通勤時間や業務の性質によって変わるため、自社の平均的な通勤時間と生活時間を差し引いて、目安とされる睡眠時間が残るかどうかで検討するとよいと考えられています。

インターバルを確保すると、始業を遅らせた分の給与はどうなりますか?

制度設計によって扱いが異なり、始業時刻を後ろにずらす方法、その分を勤務したものとみなす方法などがあります。就業規則の変更を伴うため、導入を検討する際は社会保険労務士など専門家に相談することが望ましいと考えられています。

残業時間が上限内なら、インターバルは気にしなくてよいですか?

上限規制は一定期間の合計時間を制限するもので、勤務と勤務の間隔は見ていません。月の合計が上限内でも、特定の週に深夜勤務が集中すれば、その期間の睡眠時間は削られます。両者は別の観点として分けて確認することが望ましいと考えられています。

テレワークでも勤務間インターバルは関係ありますか?

通勤時間がない分、間隔の使いみちは増えますが、始業と終業の区切りが曖昧になりやすいという別の課題があります。「退勤後もチャットを見ている」状態は間隔を実質的に短くするため、終業時刻を明確にすることの重要性はむしろ高まると考えられています。

まとめ

勤務間インターバル制度は、実際の終業時刻から次の始業時刻までに一定の間隔を確保する仕組みで、日本では2019年4月から事業主の努力義務とされています。厚生労働省の令和7年就労条件総合調査では、導入している企業は6.9%、検討もしていない企業が78.7%でした。基準としてよく挙がる11時間という数字は、通勤・生活・寝つきに要する時間を差し引くと、目安とされる6時間以上の睡眠が残るかどうかの境目に近い水準です。間隔が短い状態が続くと、睡眠負債の蓄積や体内時計のずれ、緊張が抜けないままの再出勤といった形で負担が積み上がると考えられています。制度がない職場では実測と記録から始めるのが現実的ですが、個人の工夫で埋められる範囲には限りがあります。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能や治療を保証するものではありません。不眠や強い疲労感、気分の落ち込みが続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

参考文献

編集:Wellstate編集部/監修:準備中