「通知が来るたびに、集中していた作業が途切れてしまう」「おやすみモードにしていても、なんとなくスマホが気になって手が伸びてしまう」。こうした感覚を、自分の意志が弱いせいだと感じている方は少なくありません。結論から言えば、通知は人の注意を引きやすい仕組みを備えて設計されていることが多く、それに気を取られやすいのは集中力という個人の性質の問題というより、環境の設計の問題だと考えられています。

本記事では、通知とアテンションについて以下のポイントを中心に解説します。

ぜひ最後までお読みください。

通知に気を取られるのは、意志が弱いからではありません

通知に何度も気を取られてしまうのは、集中力が続かないという個人の弱点というより、通知そのものが注意を引きやすい形で設計されていることの影響だと考えられています。赤いバッジの数字、音やバイブレーション、ロック画面への表示は、多くのアプリで共通して使われている仕組みです。これらは「見た人が思わず反応したくなる」ように作られている面があり、利用者の集中を維持することよりも、アプリを開かせることを優先して設計されている場合が少なくありません。

この記事では、通知にまつわる仕組みを「自分を律する力」の問題として扱いません。むしろ、通知が注意を奪う仕組みを踏まえたうえで、環境そのものを設計し直すという立場で進めます。次章から、通知が集中に与える影響を裏づける研究を具体的に見ていきます。

通知に気を取られやすいのは、意志の問題ではなく、注意を引くように作られた環境に置かれているからだと考えられています。

中断そのものに「復帰コスト」がかかります

作業を中断されると、再開までに時間がかかる現象は「復帰コスト(resumption lag)」と呼ばれ、心理学の実験で繰り返し確かめられています。米国の実験心理学者Foroughiらが2016年に発表した研究では、作業を中断されたあとに元の作業へ戻るまでの時間差(復帰コスト)が確認され、そのコストの大きさにはワーキングメモリ容量の個人差が関係していたと報告されています1。

また、Brumbyらによる実験研究でも、中断からの再開が速い人ほど正確さを犠牲にしやすいという、速さと正確さのトレードオフが確認されています2。つまり、中断から素早く作業に戻れたように見えても、内容の理解や質が伴っていない場合があるということです。通知に「一瞬目をやるだけ」のつもりでも、作業そのものへの意識が完全には戻りきらないまま次の作業を続けている可能性があります。

この復帰コストは、通知の内容が重要かどうかに関係なく発生すると考えられています。だからこそ、通知の「中身」を選別するだけでなく、通知が届く「回数」そのものを減らす設計が重要になります。

通知が来なくても、注意はすでに削られています

結論として、通知は届いた瞬間だけでなく、届く前の「気になっている状態」そのものが注意を削っている可能性があります。米国の心理学者Stothartらが2015年に発表した実験では、スマートフォンに通知音やバイブレーションが届いただけで、実際にはその場で画面を確認したり手に取ったりしなくても、注意力を要する課題の成績が低下したと報告されています。しかもその低下幅は、実際に電話やメッセージのやり取りをしたときの低下幅とほぼ同程度だったとされています3。研究チームは、通知の存在に気づいたことで意識がそちらに向かい、いわゆる「心ここにあらず」の状態(マインドワンダリング)が起きたためではないかと考察しています。

さらに一歩踏み込んだ研究として、2017年に米テキサス大学の研究チームが発表した「Brain Drain」と呼ばれる実験があります。この研究では、スマートフォンが机の上に見える状態、ポケットやかばんの中にある状態、別室に置かれている状態の3条件で、ワーキングメモリを使う課題の成績を比較しました。その結果、通知が一切鳴らなくても、スマートフォンが目に入る場所にあるだけで課題の成績が下がる傾向がみられ、研究チームはスマートフォンを気にしないよう抑え込むこと自体に、限られた注意資源の一部が使われているのではないかと説明しています4。

ただし、この「スマホの存在だけで集中力が下がる」という効果については、再現性をめぐる議論が続いている点に注意が必要です。2020年の追試研究では、同様の条件でスマートフォンの存在による記憶課題への影響は確認できなかったと報告されています5。2023年のメタ分析でも、全体としてはマイナスの影響が確認される一方、影響の大きさは対象者や課題の種類によってばらつきが大きいとされています6。「スマホがあるだけで必ず集中力が下がる」と一律に断定するのは早計ですが、通知の予期や存在そのものが注意に影響しうる方向性は、複数の研究で共通して示唆されています。

今日からできる設定|通知環境を作り替える手順

通知への向き合い方は、気合いで我慢することではなく、そもそも気を取られにくい環境を設定でつくることだと考えられています。iOS・Androidともに、名称はOSのバージョンによって変わりますが、次のような機能があります。

目的 機能の例 操作の目安
作業中だけ通知を絞る 集中モード/おやすみモードのような機能 作業用のモードを作成し、通知を許可する相手やアプリだけを登録します
通知をまとめて確認する 通知の要約のような機能 優先度の低いアプリを要約対象に指定し、決まった時間にまとめて表示させます
アプリ単位で遮断する アプリごとの通知オフ SNSやニュース、買い物アプリなど、即時対応が不要なものから個別に切ります
「開きたくなる」見た目を減らす グレースケール表示 色を消してアイコンの魅力を下げる設定を、アクセシビリティ関連の項目から有効にします
手に取ったときの入口を減らす ホーム画面の整理 1画面目にはよく使う実用アプリだけを残し、通知欄・SNS類はフォルダの奥や別ページに移します

設定の具体的な手順は次のとおりです。すべてを一度に変える必要はなく、負担の少ないものから試してみてください。

設定の名称や画面の位置はOSのアップデートで変わることがあるため、正確な操作方法は端末の設定アプリ内の案内や、各メーカーの公式サポートページで確認することをおすすめします。

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仕事で通知を切れない人のための現実的な折衷案

結論として、通知をすべて遮断できない仕事や立場の方でも、通知を「全部通す」か「全部切る」かの二択にする必要はありません。次のような部分的な調整でも、中断の回数を減らす効果が期待できると考えられています。

すべてのアプリを均等に扱う必要はありません。連絡の緊急度が高いものだけを厳選して残し、それ以外はまとめて確認する形にするだけでも、中断の総量を減らす効果が見込めます。

通知を切ることの副作用|見落としと周囲との期待のズレ

通知を減らすことには、見落としのリスクという副作用もあります。緊急の連絡に気づくのが遅れたり、周囲が「すぐ既読がつく」と期待している状態から「反応が遅い人」に見え方が変わったりすることがあります。これは設定の問題であると同時に、周囲との合意の問題でもあります。

通知を絞る前に、返信までの時間の目安をチームや家族に伝えておくと、こうしたズレを小さくできます。「集中したい時間帯は通知を切っているので、返信は◯時ごろになります」と一言共有するだけでも、期待とのギャップは和らぎやすくなります。緊急連絡だけは電話など別の手段で届く仕組みを決めておくことも、見落としへの備えになります。

よくある質問

通知は全部切ったほうがいいですか。

すべてを遮断する必要はありません。緊急連絡が想定される相手やアプリだけを許可し、それ以外はまとめて確認する時間を決めるといった段階的な調整のほうが、多くの方にとって続けやすいと考えられています。

集中モードやおやすみモード中に、大事な連絡を見逃さないためにはどうすればいいですか。

特定の連絡先だけを許可リストに登録できる機能を使うと、重要な相手からの連絡は通知を維持したまま、それ以外を止められます。緊急時は電話で連絡してもらう約束をしておくのも一つの方法です。

グレースケール表示は本当に効果がありますか。

効果の感じ方には個人差があり、すべての人に同じ効果を保証するものではありません。色のついたアイコンより反射的に手が伸びにくいと感じる方もいるため、試してみて合わなければ元に戻して構いません。

設定を変えてもスマホが気になってしまう場合はどうすればいいですか。

設定の見直しに加えて、作業中は別の部屋に置く、かばんの中にしまうなど、物理的な距離を作ることも有効だと考えられています。それでも集中しづらい状態が続き、生活や仕事に大きな支障が出ている場合は、自己判断で抱え込まず医療機関や専門家に相談することも検討してください。

家族との連絡も通知を絞るべきですか。

絞る対象は家庭の状況によって異なります。家族については許可リストに残しておく、あるいは緊急時のみ届く設定にするなど、周囲と相談しながら無理のない範囲で調整することをおすすめします。

まとめ

通知に気を取られやすいのは意志の弱さではなく、注意を引くように設計された仕組みと、中断による復帰コスト、そして通知の予期や存在そのものが注意を削る可能性が重なった結果だと考えられています。ただし、スマホの存在だけで集中力が下がるという効果の大きさについては、研究間でばらつきがあり断定はできません。対策の基本は、集中モードや通知の要約、アプリごとの通知オフといった設定で通知環境を作り替えることです。仕事で通知を切れない場合も、人・時間帯・チャネルを絞る形で部分的に調整でき、見落としや周囲との期待のズレは事前の合意でやわらげられます。集中しづらい状態が長く続き、生活に支障が出ている場合は、自己判断せず医療機関に相談することも検討してください。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能や治療を保証するものではありません。集中力の低下が続く・つらい場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

参考文献

編集:Wellstate編集部/監修:準備中