「休むほどではないけれど、頭がずっと重い」「席には座っているのに、資料を読んでも内容が入ってこない」。多くの働く人が、こうした状態を誰にも言わずに毎日出社しています。結論から言えば、この「出勤しているのに本来の力が出せない状態」はプレゼンティーイズムと呼ばれ、健康経営の文脈では欠勤よりも金額インパクトが大きい損失として位置づけられています。この記事では、プレゼンティーイズムとアブセンティーイズムの違い、損失額の試算とWHO-HPQによる測定方法、そしてその背景にある「なんとなく不調」の中身を分子栄養・代謝の視点から分解し、自分の状態を疑うための手がかりまでを順に整理します。

プレゼンティーイズムとは?アブセンティーイズムとの違い

プレゼンティーイズムとは、何らかの不調や症状を抱えながら出勤し、業務遂行能力や生産性が低下している状態を指します。欠勤していないため周囲からは見えにくく、本人も「不調」と自覚しないまま過ごしていることが少なくありません。

対してアブセンティーイズムは、病欠や休業といった、欠勤という形で表れる生産性の損失です。数字として把握しやすく、人事データにも記録が残ります。一方でプレゼンティーイズムは、出勤簿の上では「通常勤務」として扱われるため、可視化されにくいという特徴があります。

この「見えにくさ」こそが問題です。検査で異常が出るほどではないのに調子が悪い状態は、未病と呼ばれる領域とも重なります。プレゼンティーイズムは、この未病的な不調が仕事のパフォーマンスという形で表面化したものと捉えることもできます。

プレゼンティーイズムは、欠勤という数字に表れない分、組織からも本人からも見過ごされやすい損失です。

次章では、この見えにくい損失が実際にどれほどの金額規模とされているのかを、公的な試算をもとに確認します。

損失額はどのくらいか──健康関連コストの7〜8割という試算

経済産業省の「企業の『健康経営』ガイドブック」では、企業が負担する健康関連総コスト(医療費・傷病手当金・アブセンティーイズム・プレゼンティーイズムの合計)のうち、相対的プレゼンティーイズムが約78%を占めるという試算結果が示されています。これは3組織・3,429件のデータをもとにした集計です。

同じ試算では、アブセンティーイズムが占める割合は約5%にとどまるとされています。つまり、企業が健康関連の課題で失っているコストの大部分は、休んでいる社員ではなく、出勤して働いている社員の生産性低下から生じているという構図です。

この数字は、健康経営の投資判断にも影響します。休職者対応や医療費の抑制ばかりに目を向けても、コストの大部分を占めるプレゼンティーイズムに手が届かなければ、施策の効果は限定的になりやすいと考えられています。健康経営の全体像については、あわせて健康経営とは?認定制度の全体像と、体に効く施策の見分け方の完全ガイドでも整理しています。

どう測るのか:WHO-HPQという物差し

プレゼンティーイズムの測定には、WHO-HPQ(WHO Health and Work Performance Questionnaire)という質問票が広く使われています。ハーバード大学のロナルド・ケスラー氏らが開発し、日本語版は2013年に逆翻訳による妥当性検証を経て公開されました。

絶対的プレゼンティーイズムと相対的プレゼンティーイズム

WHO-HPQでは、2種類のスコアが算出されます。絶対的プレゼンティーイズムは0〜10の尺度で自分の総合的なパフォーマンスを評価する得点で、相対的プレゼンティーイズムは同様の業務に従事する人と比べた自分のパフォーマンスの得点です。日本人は評価の際に極端な回答を避ける傾向があるとされ、相対的プレゼンティーイズムを用いる方が実態に近いという指摘もあります。

より簡便な代替指標

質問数の多いWHO-HPQに対し、東大1項目版と呼ばれる簡便な指標も使われています。「病気やけががないときの仕事の出来を100%として、過去4週間の自分の仕事ぶりを自己評価する」という単一の質問で、損失割合を「100%-回答値」として算出します。導入のしやすさから、企業のストレスチェックに組み込まれる例もあります。

ただし、これらの指標はあくまで自己申告に基づくスクリーニングであり、医学的な診断ではありません。数値の低下が続く場合は、まず何が背景にあるのかを具体的に確認することが大切です。

「なんとなく不調」の中身を分子栄養・代謝から分解する

プレゼンティーイズムの背景には、メンタルヘルスの不調だけでなく、体の代謝レベルで起きている変化が隠れていることがあります。ここでは、見過ごされやすい4つの要因を整理します。

睡眠負債という土台の乱れ

睡眠不足は、集中力や判断力の低下に直結する最も基本的な要因です。毎日少しずつ足りない睡眠は借金のように積み重なり、自覚しないまま日中のパフォーマンスを削っていくと考えられています。詳しい仕組みと整え方は睡眠負債とは?溜まる仕組みと返し方の完全ガイドでも解説しています。

鉄・ビタミンD不足という「隠れ栄養失調」

鉄やビタミンDの不足は、健診の基準値だけでは見つかりにくい不調につながります。鉄が不足すると血液循環や筋肉への酸素供給が滞り、筋力低下や疲労感が起こるとされています。特に月経のある女性は必要量が男性より多く設定されており、不足しやすい層です。ビタミンDは骨代謝だけでなく、筋肉の機能や免疫、糖代謝の調節にも関わるとされ、不足すると気づかないうちに全身のコンディションに影響する可能性があります。血液検査でヘモグロビン値だけでなくフェリチン値も確認しないと、こうした「隠れ栄養失調」は見落とされやすい点に注意が必要です。

血糖の乱高下という日中のブレ

食後の強い眠気は、血糖値の急上昇と急降下が関係している場合があります。糖質に偏った食事で食後血糖値が急上昇すると、インスリンが多く分泌され、その後血糖値が急降下します。この急降下の局面で、脳のエネルギー供給が不安定になり、強い眠気や集中力の低下、だるさが生じやすいと考えられています。午後の会議で毎回眠くなる、という悩みの背景に、この血糖の乱高下が隠れていることがあります。

慢性炎症というくすぶり続く火種

体内でくすぶり続ける弱い炎症は、自覚症状の乏しい疲労感の一因とされています。急性の炎症のように熱や痛みを伴わず、内臓脂肪の蓄積や慢性的なストレス、睡眠不足などが重なることで持続しやすくなると考えられています。強い症状として表れにくい分、「なんとなくだるい」「以前より疲れやすい」という感覚だけが残り、原因を特定しづらいのが特徴です。

気になる方は、無料のセルフチェックで「いま整えたいテーマ」を確認できます。

自分の状態を疑うための手がかり

プレゼンティーイズムは組織が測るものというイメージが先行しがちですが、個人が自分の状態を疑う入り口としても役立ちます。次のような手がかりから、できそうなものを確認してみてください。

気になるサイン 疑いたい背景 確認の手がかり
午後に強い眠気とだるさが繰り返す 血糖の乱高下・睡眠負債 食事の順番・糖質量、平日の睡眠時間の記録
休日を挟んでも疲れが抜けない 睡眠負債・慢性炎症 就寝・起床時刻のばらつき、平日の実睡眠時間
階段や立ち仕事で息切れ・動悸を感じやすい 鉄欠乏(隠れ貧血) 血液検査のヘモグロビン値とフェリチン値
理由のはっきりしないだるさが続く ビタミンD不足・慢性炎症 血液検査、日光を浴びる時間の見直し

次のうち、できそうなものから取り入れてみてください。

いずれも診断ではなく、専門家に相談する際の材料として役立てるものです。無理に自己判断で結論を出さず、気になる項目があれば検査や相談につなげることが大切です。

企業として取り組む際の注意点

企業がプレゼンティーイズムに取り組む際は、測定を目的化しないことが重要です。WHO-HPQなどでスコアを取得しても、その結果をどの施策の意思決定に使うかを決めていなければ、測定自体が負担になるだけで終わってしまいます。

また、プレゼンティーイズムの背景は一人ひとり異なります。長時間労働による睡眠不足が主因の人もいれば、食生活の偏りや栄養状態が主因の人もいます。健診結果の見方や食事・睡眠の整え方といった、体の仕組みに沿った情報提供を組み合わせることが、スコアの改善につながりやすいと考えられています。

強い倦怠感や気分の落ち込みが続く社員がいる場合は、産業医や保健師など専門家への相談を促す体制を、施策とあわせて整えておくことが欠かせません。

よくある質問

プレゼンティーイズムとアブセンティーイズム、どちらを優先すべきですか?

健康関連コストに占める割合ではプレゼンティーイズムの方が大きいとされていますが、優劣をつけるものではありません。休職につながりかねない強い不調を放置しないことと、出勤中の生産性低下に目を向けることは、どちらも並行して取り組む課題です。

自分がプレゼンティーイズムの状態かどうか、どう判断すればいいですか?

明確な診断基準があるわけではなく、質問票による自己評価が主な方法です。「不調がないときと比べて、今の自分のパフォーマンスは何割くらいか」と自問してみることが、状態を意識する第一歩になります。

血液検査では何を確認すればいいですか?

ヘモグロビン値だけでなく、フェリチン値や血糖関連の項目にも目を通すことが手がかりになります。健診結果の読み方は健康診断・血液検査の数値の見方 完全ガイド|何を改善できるかで詳しく解説しています。

サプリメントで改善できますか?

サプリメントは食事で不足しがちな栄養を補う位置づけであり、それ単独で不調が解消すると断定はできません。持病や服薬がある場合は、自己判断で開始せず、医師や管理栄養士に相談することが大切です。

会社にプレゼンティーイズムの実態を伝えるべきですか?

体調の詳細をどこまで共有するかは個人の判断ですが、パフォーマンスの低下を感じている場合は、上司や産業保健スタッフに相談すること自体は選択肢になります。特に長時間労働や睡眠不足が背景にある場合は、働き方の見直しにつながることがあります。

まとめ

プレゼンティーイズムとは、出勤しているものの不調で本来の力を発揮できていない状態を指し、健康関連コストの多くを占める損失として位置づけられています。WHO-HPQなどの質問票で測定できますが、数値化そのものよりも、その背景にある睡眠負債や鉄・ビタミンD不足、血糖の乱高下、慢性炎症といった代謝レベルの要因に目を向けることが、個人にとっても組織にとっても次の一歩になります。強い不調や長引くだるさが続く場合は、自己判断で様子を見続けず、医療機関に相談することが大切です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能や治療を保証するものではありません。強い倦怠感や気分の落ち込みが続く場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

参考文献

編集:Wellstate編集部/監修:準備中