「読書は頭にいいと聞くたびに、積読の山を見て少し後ろめたくなる」「スマホばかり見ていて、活字を追う集中力に自信が持てない」。読書をめぐって、こうした気持ちを抱いたことがある方は多いのではないでしょうか。結論から言えば、読書量と認知機能や健康の関連を示す研究は複数ありますが、そこから「読めば頭が良くなる」「長生きできる」と言い切ることはできません。多くの研究は観察研究であり、もともと認知機能が保たれている人がよく読むという逆の可能性や、教育歴・収入といった要因を排除しきれないためです。

本記事では、読書と脳の関係について以下のポイントを中心に解説します。

ぜひ最後までお読みください。

読書と脳の関係をどう考えるか——相関と因果を分けて見る

読書量が多い人ほど、認知機能の検査結果や生存率が良い傾向にあると報告する研究は、実際に存在します。ただし、この結果だけをもって「読書が原因で頭が良くなる」「読書をすれば長生きできる」と言い切ることはできません。

よく引用される研究の一つに、米国の大規模な高齢者コホートを12年間追跡した調査があります。書籍を読む習慣がある人は、読まない人に比べて追跡期間中の死亡リスクが約2割低く、その関連の一部は認知機能の指標で説明されると報告されました。雑誌や新聞を読む習慣より、書籍を読む習慣のほうが関連が強かったとも記されています。

ここで注意したいのは、この種の研究の多くが「観察研究」だという点です。読書をする群としない群を無作為に分けているわけではありません。そのため、少なくとも二つの可能性を排除できません。一つは「逆の因果」です。認知機能がもともと保たれている人のほうが、読書を続けやすいという向きの関係かもしれません。もう一つは「交絡」です。教育歴や収入、健康状態など、読書量と認知機能の両方に影響しうる要因が背景にある可能性があります。研究チーム自身も年齢や教育歴、経済状況、健康状態などを統計的に調整したうえで関連を報告していますが、調整しきれない要因が残る可能性は残ります。

読書と認知機能の関連を示す研究はありますが、「読めば頭が良くなる」と言い切れるほど話は単純ではありません。

この記事では、読書を「万能の脳トレ」として扱うのではなく、研究で分かっていることと分かっていないことを整理しながら、無理なく続けられる読書との付き合い方を考えていきます。

読書量の実態——文化庁調査にみる「読まない」時代

日本人の読書量は、公的な世論調査でも減少傾向が示されています。文化庁「国語に関する世論調査」(令和5年度)によれば、1か月に本を1冊も読まないと答えた人は62.6%にのぼりました。読書量が「以前に比べて減っている」と答えた人も69.1%と、7割近くに達しています。

読書量が減っている理由として最も多く挙げられたのは「情報機器で時間が取られる」でした。次いで「仕事や勉強が忙しくて読む時間がない」、「視力など健康上の理由」と続きます。年齢別に見ると、情報機器の影響は20代・30代で特に大きく、6割台にのぼるとされています。

調査項目 結果 備考
1か月に本を読まない人の割合 62.6% 1冊以上読む人は36.9%
読書量が減っていると答えた人 69.1% 増えていると答えた人は5.5%
読書量が減っている理由(最多) 情報機器で時間が取られる 43.6% 次いで「仕事や勉強が忙しい」38.9%
電子書籍を利用している人 利用する(計) 40.3% 40代以下では5割超

数字だけを見ると悲観的に感じるかもしれませんが、裏を返せば「読めていない」と感じている人は少数派ではないということです。読書量が減っている背景には、忙しさや情報機器との時間の奪い合いなど、個人の意志だけでは変えにくい構造的な要因も関わっています。

深い読みと拾い読み——同じ「読む」でも脳の使われ方は違う

ひとくちに「読む」といっても、その中身は一様ではありません。じっくりと意味を追う「深い読み」と、要点だけを拾う「拾い読み」は、目的も脳の使われ方も異なると考えられています。

深い読みとは何か

深い読みとは、文章の一語一語を追いながら推論や解釈を行い、他の知識と結びつける読み方を指します。小説の伏線を追ったり、専門書の論理展開を理解したりする読み方が典型例です。深い読みには集中力や作業記憶(ワーキングメモリ)を保つ力が関わっていると考えられており、読解と作業記憶の関連を検証したメタ分析でも、両者には一定の関係があると報告されています。

拾い読みが悪いわけではない

拾い読みは、深い読みより劣った読み方というわけではありません。ニュース記事やメールを素早く処理する場面では、要点を拾う読み方のほうが効率的です。問題になりやすいのは、深い読みが必要な場面でも拾い読みの習慣が抜けず、内容を十分に理解しないまま読み終えてしまうケースです。読む対象や目的に応じて、読み方を意識的に切り替える視点が大切だと考えられています。

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紙と電子、どちらが「頭に入る」のか

結論から言えば、紙と電子書籍のどちらが理解度に優れるかは、条件次第としか言えません。2015年から2022年に発表された23件の研究をまとめたシステマティックレビューでは、両者に有意差がないとする研究と、紙のほうが優れるとする研究の両方が報告されており、結果は一貫していませんでした。

このレビューでは、読解力そのものや普段の読書習慣、家庭にある本の数、学校での情報端末の利用状況など、個人差や環境の違いが結果に影響していると指摘されています。つまり「紙か電子か」という媒体そのものよりも、読み手の力量や読む環境のほうが、理解度への影響が大きい可能性があるということです。

とはいえ、実務的な使い分けは可能です。じっくり読み込みたい専門書や、後で見返したい資料は紙のほうが向いていると感じる人が多いようです。一方、通勤中や隙間時間に読み進めたい小説やビジネス書は、電子書籍やスマートフォンとの相性が良いでしょう。どちらが優れているかを決めつけるより、自分が続けやすい形式を選ぶことのほうが実際的です。

フィクションを読むと人の気持ちがわかるようになるのか

結論から言えば、この問いに明確な答えはまだ出ていません。2013年に科学誌サイエンスで発表された研究では、文学的なフィクションを読んだ直後に、他者の感情や意図を推測する「心の理論」の課題の成績が、ノンフィクションや大衆小説を読んだ場合より高かったと報告されました。

この研究は大きな注目を集めましたが、その後の追試では話がそれほど単純ではないことも分かってきました。同じ手法で再現を試みた別の研究チームは、文学的フィクションを読んだグループとそれ以外のグループとの間に、明確な差を見いだせなかったと報告しています。実験手法の違いや、参加者がもともとどれだけ本に親しんでいるかといった要因が結果に影響した可能性も指摘されており、研究者の間でも見解が分かれたままです。

物語を読むことが他者理解に無関係だとは言い切れませんが、単発の読書体験だけで心の理論が底上げされると考えるのは早計です。フィクションを読む時間そのものは、他者の視点に触れる機会として価値があると捉えつつ、過度な効果を期待しすぎない姿勢が現実的でしょう。

今日から取り入れやすいこと——「読めない」日があってもいい

集中が続かない、時間が取れない、活字を追うこと自体が苦手。こうした状態は、意志の弱さの問題ではなく、忙しさや生活のリズム、体調など、いくつもの要因が重なって起こるものです。読めない自分を責める必要はありません。

大切なのは「本を読まなければならない」という一択で考えないことです。次のうち、続けられそうなものから取り入れてみてください。

完璧を目指す必要はありません。細切れの時間でも、続けられる形を見つけることが何より大切です。

知っておきたい注意点——認知予備能とのつながりと、受診の目安

読書は、生涯を通じた知的活動の一つとして、認知予備能という考え方とも関連づけて語られることがあります。認知予備能とは、脳に同程度の変化が起きても症状の出方に個人差が生まれる理由を説明する考え方で、教育歴や知的活動、社会的なつながりなど複数の要因が関わるとされています。読書だけを取り出して「これさえやれば安心」と考えるのではなく、認知予備能の全体像を踏まえたうえで、無理なく続けられる活動の一つとして位置づけるのが現実的です。

また、これまで問題なく読めていたのに急に文字が読みにくくなった、同じ行を何度も読み返してしまう、視界がかすむといった変化がある場合は、加齢による自然な変化だけでなく、目や脳の病気が関わっている可能性もあります。自己判断で読書量を無理に増減させるのではなく、気になる変化があるときは早めに眼科や医療機関に相談することが勧められています。

よくある質問

読書をすれば認知症を予防できますか?

いいえ、そう言い切ることはできません。読書量と認知機能の関連を示す研究はありますが、観察研究であり因果関係を証明したものではありません。認知症は複数の要因が重なって起こるため、読書だけで防げるものではないと考えられています。

電子書籍と紙の本、どちらを選べばよいですか?

結論として、どちらが優れているかは条件次第です。理解度への影響は媒体そのものより、読み手の力量や読む環境のほうが大きいと報告されています。続けやすいと感じる形式を選ぶことをおすすめします。

オーディオブックは「読書」に含めてよいですか?

含めて差し支えないと考えられます。活字を追うことが負担なときや、時間が取りにくいときの選択肢として、耳で聞く読書も有効な手段の一つです。

フィクションを読むと共感力が高まりますか?

明確にそうとは言い切れません。文学的フィクションと心の理論の関連を示した研究はありますが、その後の追試では再現されなかった例も報告されており、研究者の間でも見解が分かれています。

忙しくて読む時間が全く取れません。それでも大丈夫ですか?

大丈夫です。読書量が減っている人は多数派であり、意志の弱さの問題ではありません。短い読み物やオーディオブックなど、続けやすい形から少しずつ取り入れてみてください。

まとめ

読書量と認知機能・生存率の関連を示す研究はありますが、これは観察研究であり、逆の因果や交絡の可能性を排除できません。深い読みと拾い読みには違いがあり、紙と電子書籍の理解度の差は条件次第で一貫していません。フィクションと心の理論の関連も、追試の結果を含めるとまだ結論が出ていないテーマです。読書は認知予備能に関わる要因の一つとして位置づけられていますが、それ単独で認知症を防げるものではありません。読めない日があっても自分を責めず、オーディオブックや短い読み物など、続けやすい形を見つけていくことが大切です。

本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の効果効能や治療、認知症の発症・進行の防止を保証するものではありません。急な見えにくさやもの忘れなど気になる変化がある場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。

参考文献

編集:Wellstate編集部/監修:準備中